Eno.483 辰砂

無題

夜が明けそう。

握り締められたかのような痕



びっくりした、リケルくんが怒鳴ってきた。
「馬鹿」で返事をしちゃう俺も俺なんけど。

ずっと大陸に居たらいいじゃん

──だって。
びっくりした。びっくりした。
でもよく考えたらそうだ。
元の世界よりも良い暮らしをさせてもらってる。
酷いことを言う人はいないし、ご飯は美味しい。
大変なことはあるけど死ぬ程じゃない。
痛い傷を負うことだって、元の世界に比べたら。

確かにそう、それはそうだ。
ずっと大陸に居たらいいじゃんね。
でもね、それはね、できない。

あの子の好きな子は、ずっと縛られてるそこから離れたかったからね。
分かるよ。君はそう言うよね。

でもダメなんだよな。できないんだよな。

だって俺がこんなことになってしまう前は、壊れる前は、
故郷こそ、素敵なものだったから。

壊れてもまだ、人でなくなってもまだ帰りたいのは、
「元の世界よりも良い」って口に出してしまったら。

「まるで、今の自分を否定してるみたいだ。
──最期まで、人間であった俺の事を、俺が無かったことにしてしまうんだ」



そこまでは言わないけどね、でもなんか。
ちょっと、ちょっとだけ、何かしてやりたくて。

綺麗な石を投げつけといた。

友達なんだって、友達なんだ。
友達でいてくれるんだ。

いいなぁ。