Eno.14 神崎 考希

神崎の手記(嘘と本音)

嵐が収まったようだ。
みんなが何か騒がしくしている中、慣れない医者としての大仕事の疲れと
最悪の結果を防げた事への安心感でボーっとしていた。
それともう一点は『危うく死にかけた状況』からの解放。

しっかりと準備をして出て行った捜索ではなく、
二人がまだ帰って来ていないと知った後の突発的な行動。
あれは行き先も決めず、防水具や光源を持っていない状態で、
医療セットの補充もせずに捜索に出るただの『自殺行為』であった。
ニシュがあの時、傍に来て止めてくれなかったらと改めて思うとゾッとする。
何度彼女に救われたのか、もはや分からない。

体が冷えて来たので岩風呂に入った。
ドラム缶風呂もあれはあれで良いが、広い風呂の満足感は格別だった。

……風呂で色々な事を考えた。
俺は今まで人の気持ちを考えるような事はあまりして来なかった。
可変的だし、再現性が無い時も多いし、証明出来ないし、
とにかく相性が悪いというのが結論だ。

人の気持ちを考えるより明るくしている方が遥かに効率が良かった。
明るく接していれば少々のトラブルは回避できるし、
他人について知らなくても仕方のない奴だと思われるだけで済む。
いつしか『常に明るい自分』という嘘をつく事が染みついて、
意図せず俺は嘘つきになっていった。
そうして過ごしている内に『本当の自分』を見る事が出来る人は
何処にも居ないのではないかと思うと、増々他人の気持ちがどうでもよくなっていた。

……この島に着いて『嘘をつく余裕』が無い事が多かった。

それは『常に明るい自分』ではなく不安な時は隠せない程に不安で、
怖い時には明るく振る舞えない程に怖かった。
この島にいる間は『本当の自分』である事が多い。
その状態の俺を認めてくれる人がこの島には多かった。
嘘が染みついて島の外では晒す事も難しくなっていた『本当の自分』を見てくれる。

上手く出来ないことも多いだろうが、
みんなの事を知ろうと試行錯誤を重ねている。
気持ちの汲み取り方を間違えた事は何度もある。
だが、その程度で諦められるほど
俺はみんなの事をどうでもいいとは思っていない。

……長風呂をしてしまったようだ。
風呂からあがると数名居たので岩風呂の心地よさを説明した。
その後、気を利かせてくれたルーシーにヤシジュースを貰った。
こちらも実際に飲んだことはまだ無かったので味や飲み心地の説明をした。

何故か周りの反応は少し変だったと記憶している。