...夜の中...
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「いつか、そう。僕はただ休んだだけだよ」

「……遠回りしても、きっと。君もそう思うよね?」
雨粒が色んな所を叩いてゆくのよ。
行方不明者はまた幾らか出たのだそうね。
でもそれも良いと思うのだわ。だって、私だってそうしたくなるもの。
もう逃げ出しちゃいたいとか。
一人になりたいだとか。そういうのを。
しないのは、私を必要とする人がいるからだわ。
……今は、ただ。

「忘れるのが嫌なんだ。心が傾いていってしまう事が。だってそれは──……」
その後は難破船だとか、石碑で話題はもちきりよ。
ねえ、私は雲が巡る景色を知らないわ。
石碑の文字だって、解読出来ても読めやしないし。
誰かが居ても居なくても、分からないの。
なのに必要なんて、
それは“君”ではないのに。

「僕の正しさじゃ、ないよ」
そう思ってしまうの。

「……そうね」
変わるのがいつだって怖いのだわ。
それだけが自分であったと、そう信じて何十何百何千を渡ってきたの。
何もかもを突っぱねて、ただ届かぬものに手を伸ばしていたの。
水面に揺らぐ月を掬ったとして、それは決して月ではなかったのに。
知って、受け入れて、諦めて、前を向く事が出来ないの。

「そうおもいながら、もうどれくらいかしら」
変わらないように瞳をうんと、細めても。
景色をずうっと、見ないようにしても。
誰かと世界を、共有出来ないようにしても。
不変と永遠を、僕は誓えない。

「……すすんでも、そのさきは、きっともうずっと、また……」
ここにあるのは、酷く薄まった何かだけ。
色めき立つ花の香。
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