Eno.852 獅子谷

独白

船が流れ着いてた。結構でけーし飯になりそうなもんも落ちてたけど、生きた人間の気配は無かった。乗ってた奴らが死んで船だけが漂う事を幽霊船と教えてくれたのは誰だっけな

何にせよ都合は良い。しばらくは皆、新しい物に気を取られるはずだ。オレは今まで通り獲物を拠点に運んで飯と水を貰えば良い。不審がられない様に会話して、でも楽しいって思う前に離れる

楽しいのはダメだ
生きる事もこの島から脱出する事も諦めない。他の人達が死ぬのも防ぐ。それは軍人なら当然の事だって、吹雪も団長も軍の奴らなら皆言うだろう
だけど、楽しいって思えば帰りたくなくなる。ずっとここにいたくなる

だってここには、気にかけてくれる奴がいる
危ない事をしようとしたら叱ってくれる奴がいる
初めてできたダチがいる

分かってる。こんなの、全部オレの甘えだ。団長も吹雪も、オレが死にかけたら助けてくれる。オレ以外の部下をいっぱい抱えて、もっと上の立場の奴らの相手をしなきゃいけねーから、忙しいあの人達にそれ以上を望むのはオレの我儘だ。なら、それは我慢しなきゃいけない事なんだろう

今はまだいいし、何時になんのかは分かんねーけど帰還命令はいつか出る。その時少しでも躊躇いがあったら?そんなんじゃ、あの人達には近付けない。貧民街の生まれで学もないオレがあの人達に認められるには、せめて精神面だけでも近付かなきゃなんねぇ

それなら、楽しみたいのも我慢だ。オレの一蓮托生相手は特務団だ、ここの奴らじゃない。それに、ここの奴らとオレじゃ生きていた世界がほとんど違うしな。レックは………もしかしたら、似たような環境だったかもしんねーけど、他の奴らはオレ達より色んな食いもんの事知ってた。初めてじゃなくて、久し振りに食うみたいだった。知識もある。何より、 字の読み書きを習えてた。そんな環境で生きてきた奴らと、話が合うわけねーし、これ以上仲良くなる必要は………










…………(それは、イヤだなぁ)