Eno.14 神崎 考希

神崎の手記(大切なモノ)

船が流れ着いていたようだ。
こんなに大きな出来事が起きていたのにしばらく気が付いていなかった。
島に向かって海流が出来ている事の証拠だ。
救助船がこちらに来やすい状況が出来つつある事を知り、
いよいよそちらに向けた行動を選択していく必要が出来た。
どういったモノがあるのかについては倉庫に増えていくモノから
おおよそ理解していく事が出来る。

エポラが探していた大切なモノが見つかった時に
それを直す為、必要な物もあるかもしれない。

大切なモノ。
俺にとってそう言えるモノはなんだろうと考えながら、倉庫の整理を進めていく。
島から出て研究の続きを再開する事は、
大事ではあるが出来ないなら出来ないで特に困らない。
島の外での人間関係も薄っぺらいモノばかりだったから会いたい人も居ない。
ふと、この島での時間が大切なモノだったのでは無いかという最悪な事が脳裏をよぎった。
口が裂けてもそんな事は言えないし、言ったら駄目だと思った。
それは『島から脱出したくない』という事に繋がるし、
脱出の為に力を尽くすみんなへの裏切り行為に他ならないからだ。

嫌な考えを振り払う為に、新しく手に入った物から必要な物を探していく。
大砲が見つかった。
花火を打ち上げる為に必要になるだろうと思い、急いで整備を始めようとしたら
既におうじさんが済ませているから作業を一旦止めるべきだと、
ルーシーに言われ、運び出していた錆びだらけの大砲を倉庫に戻した。
確かにこんなものが見つかったら同じ考えになる人も居るよな。反省しよう……
ネックレスが見つかった。
エポラの言う大切なモノは小さく可愛いモノだと聞いていた。
こういったモノに近いかもしれない。貴重な材料になる事を思うと必要だろう。
煙草やパイプは見つからなかった。
海賊帽が見つかる船だぞ? 海賊ならそれらしくしろ。
ルーシーに必要なモノは引き続き探そう。
島では入手出来ない食べ物が見つかった。
食事を楽しむ者も多い、これは多くの人達にとって必要な物だといえる。

……途中から島からの脱出に必要な物ではなく、
みんなにとって必要な物ばかり考えている自分に気が付いた。

――俺にとって大切なモノは『島に居る人達』なのかもしれないと思った。
島の外での些細な事やどうでもいいと思った人達ではなく、
苦楽を共にし、本当の自分と接してくれるみんな。
一度振り払ったハズの、本当は脱出したいと思っていないのでは無いかという
嫌な考えが再び、俺の中で大きくなっていった。
それだけは駄目だ。望むべきではない。
『島からの脱出』というみんなが欲しているモノに真っ向から対立する。
俺を信じて余裕の無い中、様々な物を提供してくれているみんなを裏切りたくない。

大の字で横になり、自己嫌悪に陥る。
……俺の好きな匂いがした。贈り物の花の傍で横になっていたようだ。
ニシュは『特別扱いされない事』を望んでいる。
彼女を特別に想う事は決してあってはならない。

今まで考えて来なかった人の気持ちというモノに向き合っていくと
あまりにも俺には難題である事に気が付く。
それでもそうしなければならない。みんなの望むモノは向き合わないと分からないから。

『みんなと一緒に居たい』が『島から脱出させてあげたい』
俺は大切なモノに気づきたくなかった。