Eno.319 ニシュプニケ

--- の外---



 ..ꕤ𓈒𓂂◌




その時に気づいたのは、まるで が異端であるという事だけでした。
ぬるぬるする暖かな掌の温度を握りしめて、 は一目散に駆けだしたのです。
2本の足はまるでアンバランスで、これが4本であればもっと良いと幾度と思いました。


「大切なものって、何?“ ”以上のものって、この世界にあった?」


 はその問いに答える言葉を持ち合わせておりませんでした。
生まれる前から、死ぬ前から、目覚める前から、眠る前から。
 はたったひとつの為にここに在り、不格好な生命の歩みを模倣し続けていたのです。




それが愚かであるとして、この目に見える星屑の数程には怒るひとも居たでしょう。
かと言って今更存在意義を手放せ等と呪いで縛りつけたとして、 に為す術は無いと言うのに。
今でさえ冷たい水の中首を横に振り続けた、の見るべきは網膜の裏側でした。


──誰?


答えはもうどこにも無く、頭の中に響く存在しない声ニシュプニケだけがいやに鮮明かつ明朗です。
膨らんだカーテンに何かを幻視したとして、捲ればそこにあるのはただの空気と風の流れでした。




 はそういった所謂ひとつの虚しさを抱え、瞼を閉じてきたに過ぎません。
全ては終わりきっており、その向こう側にはきっと美しい花畑が広がっていて。
しかしそれは鬱金香では無かったのに。
あの眩しい景色だけを追い求めて、より暗い方に暗澹と進み続けるのです。
知る事、気付く事、それら全ては の諦めの事。終わりの事。無駄であった事。


──爆ぜる星より、彩る花より、巡る季節と眠った瞼よりも多い、これ迄が!


その価値を貶める事。何をどうしても、どうしようも無かったという事です。



ですから本当に、瞼を開く訳にいかなかったのです。
そう分かりながら、既に解っているのです。
解は蝶の羽ばたきより小さく掠れ、しかしこの渦潮よりも大きく轟く。
それを の小さな手が必死に抑えつけて、感覚と感情を薄く柔く遠くしていったのです。


「──糸が、」


途切れてしまう事を嫌だと言っていたら、その小指にはもう何も結べなくなっていたのです。
それでいて何かがその指を鬱血させる程、いっそ切断してしまおうというくらいにきつく絡みついていて。

 の目はいつだって惑い、何かを見落とそうと躍起になるのでした。



 ..ꕤ𓈒𓂂◌