Eno.122 春海 日雀

日々を焼く陽の焦点、或は

向った机にぼたりと汗が落ちる音をもう何度か聞いていた。
自分に必要のない悪いものばかりが垂れ落ちてくれるのではないかと願って、
__あるいは、リモコンを失くしたことを頭の中で正当化して、
蒸しきった執筆室の中で筆を執ってから、ずいぶん経っていたから。

頭はそんな願いを裏切るように悪い声が囁いて重く、
腕はその言葉に従うように一層のこと重かった。

『そうだ、気分転換でもしようかしら』

そんな思い付きが脳に浸るまでそう長くはかからなかった。
椅子を引き、背を伸ばし、なんでも良いから思いついた行先を検索欄に並べる。
辿り着けることが分かれば順路は何でもいい。
必要なものを寄せ集めにくるくる動く腕も頭も、別人のものかと疑うような働きぶりだ。

『見たままを書く三流作者が、部屋に籠って何かを書けるってわけもあるまい』

悪い声もすっかり、私の味方のような顔をしてそう笑っていた。


そうして辿り着いた広がる浜に、私は日々を焼く陽を見ていた。
雲に覆われない光線は、誰彼を無差別に焼いていて、
元より眩しい世界のすべてが、輪をかけてやや薄ぼんやりと眩しい。

陽に屈して地面を這う影を見下ろす。
無差別の網から漏れた彼奴らがどう思うのやら、それが少し気になった。
浜に伸びる影を追い、戻して、そればかりに焦点を当てて。
ふと、爪先が冷たく思ったのが、思い出せる限りの最後のシーンだった。

「まあ、ボクはかのK君のように泳ぎが達者なわけでもないからね」



「とはいえ、まさかそれがこんなことになるとはね~。
 広すぎる海、あまりにもぽつんとした景色!何?無人島?
 来てしまったからには楽しませてもらうけど……」



「にしても、この場合締め切りってどうなるのかな。
 携帯とか持ってないっぽいけど……。
 …………」



「…………書いとくか……」