Eno.316 鶴岡 星良々

ほんとは、いっぱいいっぱい、ないていた

わたしの生まれはすごく普通で、都内の一般家庭の出身。
お父さんと、お母さんと、わたしの3人家族で、とりわけ裕福なわけでも貧乏なわけでもなかった、平凡な家庭。

あの無人島動画を見てから、「アイドルになる!」って両親に話したときにも、両親は応援してくれたし、オーディションの前日も、笑顔で見送ってくれた。
中3の10月、芸能事務所からオーディションの合格通知が来て、次の4月から高校に通いながらうずリリの研修生として活動することになったときも、両親はほんとに喜んでくれて、大好物のモンブランを買ってきてくれた。
高校も、地元の公立高校への進学が決まってて、順風満帆だと思ってた。

――でも、突然病院から連絡があって。

お父さんが救急車で運ばれた、って。
先生の話では、病名ははっきり覚えてないんだけど、長期の入院と手術、退院後もリハビリが必要になるかもって説明があって。
隣でお母さんが涙ぐんでたのを思い出した。

お父さんは仕事を休むことになり、治療費も必要で、お金の余裕がないってことは薄々気づいてた。
でも、アイドルは諦めたくなくって……高校進学を諦めることにした。
奨学金がもらえるほど頭もよくなかったからさ。

お父さんが病室で「星良々、ごめんな……」って何度も言っていた。
ううん、お父さんは何も悪くないよ。悪いのは病気なんだから。だから、お父さんが元気でいてくれて……わたしを推してくれていれば、それで嬉しいから。
だから、高校のことは、気にしてない。

これが、わたしがアイドルとして、初めてついた嘘だ。
今でも、本当はあのときが一番つらかったってことを、隠し通して生きているんだ。