Eno.14 神崎 考希

神崎の手記(最も確実な言葉)

大きなウサギさんがこの島に二本目となる灯台を作ったらしい。
どういう意味なのかとその情報から色々考えていると、
今まで島で出会った事の無い巨大な兎がいた。
……居たわ、大きなウサギさん。
彼(?)は倉庫にあった調理済みの食料を一つ抱えて何かを伝えようとしていた。
……灯台を作ったらしいし、高い知能を持っているのだろう。
突如現れた功労者を労う為に身振り手振りで食料を贈るとの事を伝えたら伝わった。
『脱出させたいと思うみんな』の中に大きなウサギさんが追加された。
俺も随分色んな事に慣れたモノだ。


雨が降り出した。勢いはドンドン増していく。
急な雨という事もあり、まだ戻っていない者も多い。
拠点内を見ながら居ない人の確認を進めていく。

――突如、大きな声がした。
どうやらメガホンを使用して帰るよう呼びかける者が居たようだ。
その効果は大きく、続々と拠点にみんな戻ってきた。
しかし、その中にニシュの姿は無かった。

音に敏感な彼女がこれを聞き逃しているとは到底思えない。発言内容が重要だ。
……ひとつ、ニシュが拠点に戻って来る言葉が浮かんだ。
他にも確率の高そうな言葉はあるが『最も確実な言葉』を伝える為にメガホンを持った。
それを口にする事は無いと思っていたし、そう心掛けてきた。
それは彼女を特別だと告げるモノでもあり、特別を嫌う彼女には言うべきではない。
だが、嵐が来る前に拠点へ戻ってきて貰う必要があるので、
彼女の機嫌を損ねる事になっても良いと判断した。

ニシュ、傍に“居て欲しい”

それは俺がニシュを特別に想っている事を証明する言葉だ。
だが、彼女はそう言われたら傍に居ると言ったのだ。
それならこれがすぐに彼女をここに呼ぶ『最も確実な言葉』だ。

この島に来る前は人との交流をしっかりして来なかったから、
特定の人物に居て欲しいと言う事はとてつもなく気恥ずかしかった。
そして彼女の“特別扱いをされたくない”という望みに対立した。
前回の比ではない程、怒られるだろうがそれでもいい。

ほどなくしてニシュはずぶ濡れで戻って来た。

既に怒っている様子だった。
その結果を想定した上で彼女が確実に帰ってくる言葉を言ったのだ。受け入れよう。
彼女は怒りをあらわにしながら更に追加で覚悟をしておけとの言葉を告げた。
俺は一体どれだけ怒られる事になるのだろうと思いつつも、
彼女が戻って来てくれたという望んだ結果に満足していた。

説教が始まった。
矢継ぎ早に紡がれる文句に出来得る限りの真摯な対応を心掛けた。
しばらくそういった押し問答をしていると、急にその勢いがなくなった。
“特別扱い”を嫌う彼女にそれを知った上で“特別扱い”をしたので、
前回の比ではない程に機嫌を損ねる結果になると予想していたが、
今回はそういう結果にならなかった。

前回と今回で“決定的に何か違うモノ”がある。

疲れて眠たくなったと言うニシュに、雨で体温が下がっているから
体を温めた後に寝るように告げて見送った。

人の気持ちを汲み取るのは本当に難しい。