Eno.483 辰砂

無題

今夜も雨みたいだ。
流石に今夜も出ていったら怒られるかな?
夜更けに抜け出そっか。

黒い海を見るの、好きなんだよね。

──っていうのはね、少しだけ嘘。
あの場にいると、否が応でも気を遣わせて、世話を焼かれて、心配とか、あとあの、包帯とか。

目を閉じていたらせっせと巻かれてしまった。
そこに傷があったのかは知らないけど、綺麗に巻かれてしまったそれを解くのは些か心苦しいことではあった。

でもほんと、要らないんだよ。
俺には。

可愛い狼だ。
その身から血の臭いを漂わせているのに。
体からか、服からか──は、ともかく。

おかしいな、
普段ならこんなに言葉を投げつける事はしないのだけれど。
こうもかかずらわるとは思わなかった。

まるで人間みたいじゃないか。あの白いの。

やめてくれよ。そんな事しなくても治る。
やめてくれよ。無茶をするなだなんて。
やめてくれよ。それを偽善だとかは口にしないから。
やめてくれよ。言ったら聞いてくれよ。
やめてくれよ。
やめて。

──やめろ。

「そうであるべき」を押し付けないでくれ。



もう、絆創膏も包帯も、ガーゼもギプスもその何もかもが、
皮肉みたいに見えてくる。

今の俺が、人間なわけないだろうに。