Eno.129 何かの群島

それらについて

 それらに名はない。

 それは文明の影に潜むもの。
 人の発展が作り出すかがやきが、その後ろに投げかけた、くらやみの中に住まうものたちだった。

 子を浚い、老人の目を塞ぐ。男に背後から声を掛け、女の手にぬるりと触れる。
 しゃれこうべの虚ろな眼窩から芽を出して咲く、深紅の花弁。
 秋の色付いた葉の中に潜み、かさかさと音を立てて子を誘う。
 波打つ緑の波の中で、陽炎のごとく揺れて、生けるものの心を壊す。

 よくわからない、怖いもの。説明のつかない、ふしぎなもの。
 言葉にするならそうなるだろう。

 光がなければ、影も生まれない。
 影がなければ、これらも動く事ができない。
 ゆえにこれらは、人を好んだ。正確には、人の作り出す文明を、好んだ。

 これらは人の作り出す道具を好んだ。箱を好んだ。樽を好んだ。素焼きの壺よりも、豪奢な仕掛け箱を。木組みの箱よりも、螺鈿の美しい箱を。
 箱より好んだのが建築物だ。板を組んで藁を葺いた物置。煉瓦を組んで作られた民家、金属の柱を組み、コンクリートで固めた四角い建築物。
 そうやって、様々な人造物の間を移り住むうちに、やがて、船に乗り込むものがあらわれた。

 海へ出る。元居た世界の海が、ジーランティスと繋がる。船が沈む。沈んだ船から海へ出でたそれらは、小さな孤島に流れ着いた。
 流れ着き、数を増やし。一部は孤島を出て行って、他の世界へ。あるいはジーランティスの海をさらに彷徨い、また別の島へ辿り着いてはその数を増やす。
 そうして、そうやって、何度かそれを繰り返したろうか。



 これらは今、巨大な群へと成長していた。

 元はおそらく小さな島。それに張り付いたこの群は、数を増やし、土と石、僅かな植物のあった島を覆い尽くし、やがて、群自体が島のごとく海にぽっかりと浮かび始めた。
 人の足で歩き、全容を掴むには数日かかりそうな大きな島。必要があればそれぞれが雨を飲み、海藻や貝を食い、今日まで永らえ続けている。





 さて。
 そんなシマにも、また知的生物が流れ着いてきたようだ。

 これらは人間を好む。知的生物を好む。彼らが作り出す、文明の光を好む。
 とりわけこの群は、友好的なものの集まりだ。
 かつて知的生物に助けられ、親愛のうちに数を増やしたそれらはきっと、流れ着いた人々の、助けになることだろう。