Eno.571 みちる

遭難日誌その5~みちる編






 遭難五日目。

 嵐の一夜を開けた後は……なんと、難破船が漂着していた!
 …前回の日誌と同じ書き出しですわね…?

 恐らくではあるが、あの嵐の晩に流れ着いただろう船には誰も乗っておらず、様々な物資が転がっていたらしい。…御神凪さまがおっしゃってたように、船員さん達は脱出済みであればいいけれど、今のところ骨を見たとか危ない人がいたという話は聞いていない。

 大砲にラム酒、お茶菓子の缶や金銀財宝…このシマでは得られない沢山の資源がそこにある。残念ながら金貨の類は食べられないのでさほど重要ではないものの、それでも、スフィーラさまから宝石を貰った時は嬉しかった。色合いは私と同じ紫…アメジストだろうか。あまり宝石には詳しくない、しかし、太陽に透かして見えた時の煌めきに、心が躍らないわけがなかった。

 …そういえば、十野さまと御神凪さまが盛り上がっていたことがあって、たぶん(私があまりにも無知なので見当違いだったら恥ずかしい…)このシマに関わる重大な秘密が判明した。
 幻の大陸"レムリア"にいただろう何者かが、石碑を遺していった。ここで何かを研究し、それが大成し、やがて海とひとつになる……その光景を見ることは叶わないが、既に満たされたという。

 …

 ……やっぱりよく分からない…。
 よく分からないものの、なんとなく私が思い付いたのは、『マヨヒガ』の存在だった。御神凪さまから教えて貰った、なんらかのきっかけで迷い込み、閉じ込められ、生きて出られるも二度とその姿を見ないという話…なんだか、このシマの状況によく似てるのだ。…違いがあるとすれば、確固たる脱出方法出口がないということだろうか。
 もしかしたら、その人の言う"我が術"というのに私達が巻き込まれたのかも?…あまりオカルトには詳しくないし、信じてもいないけれど。

 5日目の日記は以上だ。
 脱出用キットも揃い、あとはリヴァイアサン号が出来上がれば私達はシマを脱出出来る。

 このシマでの共同生活も、そろそろ終わりだ。


みちる


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「………」




 筆記具を置いて、外を見る。その光景は穏やかなように見えて、それでいて妙に心がざわつく。移ろいやすいこのシマでは、なんとなく『そろそろ嵐がまた来るだろう』と察してしまう。


「…雨水を蓄えて、木材が残ってれば加工して、それで真水に変えて…」




 出来ることを1つ1つ頭の中で並べて、"最適化"する。自分がなせる最善を尽くす。それは最期の日まで、変わらない。


「…、…」




 ふと、自分の利き手を見る。昼間の砂浜で誤って切ってしまった手の平に、もう痛みはない。シスターが適切な処置を行ってくれたからだろう。


「……わたし――」




 想いを、呟く。
 それはやがてくる雷雨によって、誰の耳に届くまでもなく掻き消されたのだった。










王子様を殺せない人魚姫は愛を貫き、泡となり消えました。
お腹の空いた狼は悪と見なされ、腹を裂かれて死にました。

わたしの覚悟は、何だったのだろう。
気付いてしまったこの背徳を、どうしたらいいのだろう。

あの日、わたしは逃げ出した。
いつも通りの日常に戻ったはずなのに、逃げ出した。
汚れた手は幾度洗っても消え落ちない。暗がりからあの男が見ている気がする。夫を失っても笑う母の顔を、真っ直ぐに見れない。雑踏の中に、違和感が1つ。それが、わたし。

わたしは、どこに行けばいいのだろう。
どこに行けば、わたしはわたし自身を許せるだろう。
本当の安息を、どこで得られるのだろう。

答えは、分かった。
それは、









うみのそこ。