Eno.645 ヴィクトル・トート

正直なところ

「……もしもの話だけど、このまま帰らなかったらどうなると思う、ヨナ」

『どうなるって、そのうちこの島は沈むんだから、死んじまうだろ』

「そうじゃなくて、ここからは脱出して、その後のことだよ。
 別に、向こうに戻らなきゃ戻らないでもいいんだから。
 どこか適当なところで暮らしてもいい。そうだろ?」

『首輪がついてんだろ』

「こんなの、捨てようと思えばいくらでも出来る」

『そりゃ、そうかもしれんけど。
 急にどうした? また反抗期か』

「別に。ただ、思っただけ」

『ふうん。……帰らなくて、どうするんだ?』

「僕はどうもしない。けど、もし僕が帰らなかったら、あいつらはジーンを使い続けるしかなくなるだろ」

「そうしたら……少なくとも、あいつが死なないように今よりはずっと、気をつけるようになるんじゃないかと思って」

「僕は死なないし、あいつも死なない。一番いいと思わないか?」

『んー。……おれは、お前らの事情は知らんけど。なんか、あんまお前らしくないな。
 仮に……いや、どっちにしても、決まってることは変わらんのだぜ、ヴィクトル』

「……わかってるよ、そんなこと」

『まあでも、お前の気持ちもわからんではない。おれは賢いカミサマだからな』

「もどきだろ、お前も。でなきゃ小賢しい毛玉」

『なんだとう。
 ……でも、なんだ。そういうことは、ちゃんと帰ってからはっきり言ってやれよ。
 手を抜くなってさ』

「……そうだな、そうする。
 このままにして、逃げたみたいに思われるのも腹立つし。
 全部、思い通りにしてやるよ。僕は一番強いんだから」