Eno.939 傘音

知られていたひとつ

「生まれる場所を間違えた」とずっと思っていた。
だから死ぬことを望んでいた。

別に死にたかったわけではない。
ただ、この世界がワタシの生きる場所として相応しくないから滅ぼす代わりにワタシの方が死んでやろうという謙虚な気持ちだ。
自分に向いていない場所なら自分に合うように作り替えるのではなく自分の方が去るべき、そういうのってみんな美徳と言うだろう。

……勿論、どういうわけかこんな帰りようもどこかに行きようもない場所に迷子になれば、過ごしやすくするための対処程度はするけれど。
こんなの、単に死ぬまでの暇潰しのようなものだ。

昔のワタシも、死ぬ場所を見つけるまでの暇潰しとして生きていた。
この世界はワタシのために作られていないとはいえ、別に生きていけないほど致命的でもなかったし。
どうせなら、とびきり綺麗な場所を見つけてそこで死にたいと思っていたんだ。
なんというか、夢見がちな感情だと今では思う。

そんな程度のモチベーションでも人は20年弱も生きていけるのだからこの世界というのは案外甘いのかもしれない。
そうして、本当に死に場所を見つけることができたのも。


あの人は。
ワタシにとって世界で一番綺麗なものだったんだ。
こいつの前でなら死んでやってもいいと思ったし、持って逝きたいとも思った。
それに、あの人は頷いてくれたんだ。一人になんかさせないよって。
きっと、あのときのワタシは幸せというものだったのだろう。


それが、大学に入って少しした頃の話。
あいつと、あの人と、ワタシが。まだ三人でいられた頃のことだった。