神崎の手記(理論という最後の砦)
再び嵐がやって来た。
俺は必要だと判断したので人数確認という名の事実という結果を見ていった。
少し遅れた者も居たが、初めて拠点で全員を確認出来た。
望んでいた結果を得たので、何故今回はそう出来たのかについては一旦保留する事にした。
今回の嵐は長引きそうでもあったし、全員集まった事も踏まえた上で、
拠点内は軽い宴のようなモノが開かれていた。
水や食料をみんなで分け合い、望む者は酒を口にして盛り上がっていた。
その状況から、少なくともこの宴は間違いではなかったと判断する。
後は俺が作ってしまった“対等”になる為に必要な第一歩を踏み出す事にした。
色々贈り物の案は考えたが最も彼女が喜ぶ可能性の高いモノを持って、
そっと賑やかな拠点の片隅へ移動する。
ニシュに静かに声を掛けた。
渡したいモノがある事と、必要なら場所も移す事も伝えた。
あまり目立つ事を良しとしない彼女に、必要な配慮だと判断したのでそういう行動を心掛けた。
急に声を掛けられたからか、彼女は大きく動揺しているように見えた。
動揺は想定していた以上のモノで、普段はあまり見ない様子を見る事となった。
静かにしているならここでも良いと言われたのでそのまま贈り物を渡す事にした。
“俺に必要”だと思って作った“対等”を目指す為の第一歩であり、
彼女が喜ぶであろうと考え抜いた“アヒルのぬいぐるみ”を手渡した。
……前に貰った贈り物のお返しである事と、贈り物を貰ったままでは
“対等”ではないという言葉と共に。
彼女はそれを受け取ると、ぬいぐるみの状態を“見る”ように
それに触れながら形を確かめていた。
「ありがとう」という言葉を小さく言った後、
彼女は“対等”を望んでいない事を告げた。
“価値”のやり取りがしたいから贈り物を渡した訳では無いとも口にした。
“特別”だと前に伝えた事と合わせて、それについて考えたり、苦しんでいると告げられた。
俺はその望んでいた結果とは違うモノに“痛みのような”モノを覚えた。
――大丈夫、まだ大丈夫。考え方が違ったんだ。再び試行錯誤していけばいい。
そう思いながら、ニシュを苦しめるつもりはなく、喜んで欲しいと思って渡した事と、謝罪の言葉を口にした。
“対等になりたくて”贈り物をするのではないと聞いた。
“特別”という言葉はニシュにとって
本当に“特別”だったからそれについて今も考えていたと聞いた。
彼女の見えない瞳に涙が浮かぶのを見て、贈ったばかりのぬいぐるみでそれを隠そうとしているのも見てしまった。
彼女は俺の事を
『何も求めていないようでいて、なにより何かを求めている』と、そう表現した。
そう口にする彼女の姿は俺が望んでいた結果の形とは全然違っていて、
俺が感じている“痛みのような”モノが次第に強くなっていくのを感じた。
彼女の言葉が止まるまで、俺は何も言えなかった。
望んだモノに辿り着けないでばかりいる“言葉”を口に出来なかった。
試行錯誤をしていく中で、彼女をこんなに傷つけてしまう事が怖かったから。
『何も求めていないようでいて、なにより何かを求めている』
その意味について考えた。本当に求めているモノ……
俺はそれに少しだけ心当たりがあった。でもそれを口にしないように、
“気づかないフリ”をし続けていた。
それは全く理論的ではなく、感情的な事だったから。
感情的な事というのは理論を一度捨てないと口に出来ない。
それを手放して何かを口にする時、俺は自分を守る為の言い訳を全て無くしてしまう。
嘘をついてきたのは、そうしている間は“本当の自分”を守れるからだ。
でも、この島ではそれをする事が出来ない状況になる事が多かったから、
自然と“本当の自分”にならざるを得なかった。
思考し、理論ばかり口にしていたのも“本当の自分”を守れるからだ。
理論に基づいて何かを言っている間は、例え間違えてしまったとしても
“本当の自分”が傷つく事は無い。
考え方が、理論が間違っていたと“傷つかずに”試行錯誤が出来るから。
“痛みのような”モノは際限なく強まる。
目の前の彼女の姿を見て何処までも強くなる。
彼女はこんなにも“傷ついている”のに、俺はまだ“自分が傷つくこと”を恐れている。
少しのきっかけで失う、嘘という壁はとっくに剥がれた。
それを維持する事より“得意な嘘があったから”
二段構えで守っていた。自分を守る為の方法。
――理論という最後の砦があったから。
理論を捨てて、俺が気づかないようにしていた部分について。
“本当に望んでる事について”向き合わなくてはならない時がやって来た。
俺は必要だと判断したので人数確認という名の事実という結果を見ていった。
少し遅れた者も居たが、初めて拠点で全員を確認出来た。
望んでいた結果を得たので、何故今回はそう出来たのかについては一旦保留する事にした。
今回の嵐は長引きそうでもあったし、全員集まった事も踏まえた上で、
拠点内は軽い宴のようなモノが開かれていた。
水や食料をみんなで分け合い、望む者は酒を口にして盛り上がっていた。
その状況から、少なくともこの宴は間違いではなかったと判断する。
後は俺が作ってしまった“対等”になる為に必要な第一歩を踏み出す事にした。
色々贈り物の案は考えたが最も彼女が喜ぶ可能性の高いモノを持って、
そっと賑やかな拠点の片隅へ移動する。
ニシュに静かに声を掛けた。
渡したいモノがある事と、必要なら場所も移す事も伝えた。
あまり目立つ事を良しとしない彼女に、必要な配慮だと判断したのでそういう行動を心掛けた。
急に声を掛けられたからか、彼女は大きく動揺しているように見えた。
動揺は想定していた以上のモノで、普段はあまり見ない様子を見る事となった。
静かにしているならここでも良いと言われたのでそのまま贈り物を渡す事にした。
“俺に必要”だと思って作った“対等”を目指す為の第一歩であり、
彼女が喜ぶであろうと考え抜いた“アヒルのぬいぐるみ”を手渡した。
……前に貰った贈り物のお返しである事と、贈り物を貰ったままでは
“対等”ではないという言葉と共に。
彼女はそれを受け取ると、ぬいぐるみの状態を“見る”ように
それに触れながら形を確かめていた。
「ありがとう」という言葉を小さく言った後、
彼女は“対等”を望んでいない事を告げた。
“価値”のやり取りがしたいから贈り物を渡した訳では無いとも口にした。
“特別”だと前に伝えた事と合わせて、それについて考えたり、苦しんでいると告げられた。
俺はその望んでいた結果とは違うモノに“痛みのような”モノを覚えた。
――大丈夫、まだ大丈夫。考え方が違ったんだ。再び試行錯誤していけばいい。
そう思いながら、ニシュを苦しめるつもりはなく、喜んで欲しいと思って渡した事と、謝罪の言葉を口にした。
“対等になりたくて”贈り物をするのではないと聞いた。
“特別”という言葉はニシュにとって
本当に“特別”だったからそれについて今も考えていたと聞いた。
彼女の見えない瞳に涙が浮かぶのを見て、贈ったばかりのぬいぐるみでそれを隠そうとしているのも見てしまった。
彼女は俺の事を
『何も求めていないようでいて、なにより何かを求めている』と、そう表現した。
そう口にする彼女の姿は俺が望んでいた結果の形とは全然違っていて、
俺が感じている“痛みのような”モノが次第に強くなっていくのを感じた。
彼女の言葉が止まるまで、俺は何も言えなかった。
望んだモノに辿り着けないでばかりいる“言葉”を口に出来なかった。
試行錯誤をしていく中で、彼女をこんなに傷つけてしまう事が怖かったから。
『何も求めていないようでいて、なにより何かを求めている』
その意味について考えた。本当に求めているモノ……
俺はそれに少しだけ心当たりがあった。でもそれを口にしないように、
“気づかないフリ”をし続けていた。
それは全く理論的ではなく、感情的な事だったから。
感情的な事というのは理論を一度捨てないと口に出来ない。
それを手放して何かを口にする時、俺は自分を守る為の言い訳を全て無くしてしまう。
嘘をついてきたのは、そうしている間は“本当の自分”を守れるからだ。
でも、この島ではそれをする事が出来ない状況になる事が多かったから、
自然と“本当の自分”にならざるを得なかった。
思考し、理論ばかり口にしていたのも“本当の自分”を守れるからだ。
理論に基づいて何かを言っている間は、例え間違えてしまったとしても
“本当の自分”が傷つく事は無い。
考え方が、理論が間違っていたと“傷つかずに”試行錯誤が出来るから。
“痛みのような”モノは際限なく強まる。
目の前の彼女の姿を見て何処までも強くなる。
彼女はこんなにも“傷ついている”のに、俺はまだ“自分が傷つくこと”を恐れている。
少しのきっかけで失う、嘘という壁はとっくに剥がれた。
それを維持する事より“得意な嘘があったから”
二段構えで守っていた。自分を守る為の方法。
――理論という最後の砦があったから。
理論を捨てて、俺が気づかないようにしていた部分について。
“本当に望んでる事について”向き合わなくてはならない時がやって来た。