警報:今遠き
ツキ・ステーションの中に博物館があることを、一体どれだけの人が知っているのだろうか?
少女は、一つ特別な秘密を手に入れたような幸福感を麻薬にして、重くなる足でそこへ向かう。
静かだ。
埃ひとつないのは、清掃機能が働いているからなのだろう。
…なんてことを少女は思わない。ただただ、爪先の重さに踊っている。
靴音はしない。消音機能が働いている。
綺麗であることなどさも当たり前のことであり。
埃なんてものを見つけたら、怯えて見せるのやも知れない。
──潔癖な程な清潔。
汚れ一つ許さない。
最下層まで降りるように、そこまで降って。降って。降った。
そうして、そこへと辿り着いた。
◇ ◇
扉なんて物はなく、ぽっかりと、口を開けるみたく入り口が空いているようだった。
清潔にされているが、整備されていないように、古い形式の看板が、曖昧に点滅している。
“XX歴史博物館”
果たして、チケットなどいるのだろうか。
監視えぃあぃの目はなく、検索しても引っかかることはない。
セーフセンサはオーケーの色を示しているから。
その入り口へと足を踏み入れている。
少女は、感嘆の声をあげている。
壁面には、時代が書かれていた。
ある星の変遷が描かれている。歴史が表示されている。
ツキ・ステーションが開業した記念に、建てられた博物館であること。
ツキ・ステーションが、どんどんと線路を伸ばしていくこと。
移住都市火星の繁栄。
辺境の星へコネクトする。
探査機たちの大活躍。
和解は方便。
今のツキ・ステーションの姿から、何百年か前で、更新は途切れてしまっているようだ。
けれど、少女が興味を持ったのはそれではなく。
それ以前の話であったけれど。
──透明な床を見た。
いつものように光輝く墨色の空だった、けれど。
その床は、ある星を見せるためだけにあることが、少女にはもうわかってしまっていた。
コバルトブルーが、ずっと目を焼いている。
あの青さに目が惹かれている。
何より、あの色を見ていると。どこか懐かしく、恋しく思うように。
泣き出したくなる心地でいる。
それは植え付けられた反応が故かもしれないし。
ただただ、知らない哀愁が襲っているだけなの、かも。
しれないけど、しっている。
四つん這いになって、その輝きを見つめて。
ぺったりと床に手を当てている。
───麗しき水の星。
母なる海のある──
384,400 km先。
こんなにも近いのに、線路は伸びていない。
手を伸ばしても届かない。
少なくとも、こんな1人の少女では。
初めて見た水の星を、恋しく思っていた。
◇ ◇ ◇
──人は宇宙を開発した。
狭い星を抜け出した。
旅立っていく。
権利をつかんだものが。
星空は繁栄している。
それらは栄えている。
宇宙に適応したから。
きっともう、母なる星へはもどれない。