Eno.333 豪麗 芽斗

豪麗芽斗 一年前の記録

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ボクシングの大会があった。
形式はトーナメント。参加選手は全国の高校生ボクサー。

都内のジム所属選手である豪麗は
部活動の枠を超えてあらゆる大会に出場していた。


その試合は決勝でもなんでもなく、
大会も高校生レベルのものであるから
試合の様子をとらえたマスメディアは極々少なかった。


ゆえに、当時のクラスメイトの多くはこの"事件"の顛末を知らない。

知る者も、好んで語ろうとはしないだろう。


「勝者」が再起不能になった試合のことを。


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ボクシングというスポーツは"リング禍"が多い。
直接的な原因が試合行為にあり、競技者が死亡、または深刻な障害を負うことである。

そして、"過失"がない限り 負わせた側が罪に問われることはほとんどない。
当然警察は捜査をするが、大抵は検察が不起訴で終わりにするのだ。

互いが真剣勝負に励んだ結果であり、リングに立つ以上誰しも覚悟を持っている。
ゆえに何が起きても禍根を残さない。それがボクサーのスポーツマンシップである、と。


豪麗の一年前の試合もそうであった。



結果から言うと……豪麗芽斗は敗北した。

おたがい何かに取り憑かれたように殴り合う。
決着がつく直前、豪麗はマウントポジションを取って重い打撃を何度も決めていた。執拗に、何度も。

しかし見ていた観客曰く──その最中、瞬間的に、豪麗に大きく不自然な隙が生じたという。

優位に立っていたのに、まるで怯えて竦むような。

……そして、甘い一撃にカウンターを見舞われ、豪麗は倒れた。


勝利を勝ち取った相手も、程なくしてリングに伏す。
倒れたまま見開かれた眼には 明らかに正気が残ってなかったという。