Eno.418 セルシア

祈り/隔世


凄く気分が良かった。
外は嵐。そんな事が些細に思える。

この夜中だ。今なら誰も見てはいないだろう。
私は荷車を持ち出して駆け出した。
あの時、あの背中を追い掛けるような。
どんな気分で出て行ったのだろう、と。
嗚呼、このような気分だったのだな、と。

私は嵐の中を駆けて行った。
己の生き死になど考えていない。
ただ、凄く気分が良かった。
それだけだ。
お酒のせいだろうか。
そんな事はないだろうけれど。

結論から述べると死にかけた。
なんとか生命活動は保てているが、風雨の中で手足が折れるんじゃないかと言う程度の衝撃を受けた。
まあ、別になんともないのだけれども。
自分で影響力を弱らせておいて都合の良い話だが、傷の1割程度は即時再生できた。
見られたら何があったかは一目瞭然だろうけれども。

私にはそんな事は最早関係なかった。
生きているならそれでいいのだとさえ。

倉庫には既に人数分のなんらかの備えが用意されているようだった。
此処で彼等の労力を無駄にするわけにもいかないので、私がどうにかなるわけにはいかなかった。

「私は人間です」

と。あの時はああで、そう思いたかった。
この呪いを断ち切る、なんてことも。

でも、この感覚は人間とは程遠かった。
私は傲慢だったのだろうか?
己の生まれに殉じるべきだったのか?
呪いを解くなら死ぬしかないのか。

まだ死ぬわけには行かない。
だから、そんなはずはない。

私は人間ではないかもしれないが、
それに近い何かでありたいとは思っていた。
それだけは揺るぎのない事実だ。



どうせ私には未来も希望も何もない。帰る場所だってない。
無駄な情が湧かないように最初から徹底していたはずだ。本当はもう少し知りたかった事があった、できた。
全て上手く行っている。何一つ思い通りになっていない。