Eno.14 神崎 考希

神崎の手記(理論と感情の先)

疲れの影響からか、作業スペースの外で寝ていた。
“安眠効果”のある花が無くてもそう出来る程に俺の状態は改善していたのだろう。眠りの浅さは精神的なモノにも起因する。
そう在れる程、自分の気持ちに向き合える“きっかけ”を得たのだ。
それは“嬉しい事”であり少し“悲しい事”でもあった。

起床後、再度状況確認を開始した。
おうじさんの花火打ち上げを皮切りに、続々と島の存在を知らせる為の設備は整っている。
その結果なのかは分からないが、汽笛の音と、船が近くまで来ている事まで確認出来た。
まだそれが本当に俺達の存在に気づき、救助を頼める事なのかは分からない。
だが、少なくとも“本当に来るのかどうか分からない船”を相手でなく、
“確かにそこにある船”を目標として行動出来るようになった。

その状況の変化もあって、周りの雰囲気も
“救助”を考える事から“脱出”を考える事へと変化していくのを感じた。
俺もそちらに向けて意識を変えていった頃に、
ヒナタ(書き置きに名前をそう残していたので合っているハズ)の言葉が耳に入った。

船に乗せて貰う時の“手荷物脱出キット”が人数分あるか確認しないと

今まで島の存在を“本当に来るのかどうか分からない船”に向け、
島の設備にばかり気を回していた俺には全く気が付く事が出来ない内容だった。
必要になる可能性は高い、その船が仮にこちらを助けてくれるとしても、
それに応えられるモノを用意していなければ救助は成立しない。

俺は急いでそれに必要な物資の確認と、
その物資をどれだけ現在確保出来ているかについてみんなに報告した。
“脱出キット”に必要な材料については
キリエル(こちらも書き置きに名前があったので合っているハズ)が
詳細に調べた上で、書き置きに残してくれた。頭が上がらない。

俺がそれに気がつけなかった事を謝罪すると、
ルーシーとおうじさんは気に病むなと声を掛けてくれた。
良い返事が浮かばなくて曖昧な返答をしてしまったと思う。
だが、このままでいては状況は改善されない。
それが必要になる可能性も高いと認識を改める事に切り替えた。

拠点での話題はどうやら倉庫の釣り竿の行方について、というモノだった。
食料調達をしてくれる者が多い事から、それが出払うタイミングも当然あるだろう。
俺はそこに探しているモノが無いというストレスのようなモノを
みんなは感じているのではないかと思った。
話は“誰が”持っているかに向いてしまっていて
“物が”無いという事実に向いていないようにも感じた。
犯人捜しのような事をしたいわけではない、物が無い状況を改善したいんだ。

まだみんなの感情的な面を上手く汲み取れないが、
俺の理論的な部分と感情的な部分を総合した結果、そういう考えになった。
感情的な部分だけで向き合う事はまだ“特別”な人にしか出来ないが、
総合した結果であればみんなの前でもそう判断し、そう思えるようになった。

“今”これが無いとみんなの気持ちがバラバラになるかもしれない。
食料を調達するという行為が出来ないという“理論的な部分”
釣り竿がないという状況で自分のやりたい事が出来ないという“感情的な部分”

それが正しい事なのかは分からないが、釣り竿を作るべきだと判断したので
即席の釣り竿を作り、倉庫に置いた。
“両方の面”を持った事ならみんなの前でも怖がらずに行動出来る。
俺はその事実に気づき、そう出来た事が嬉しかった。


――脱出もいよいよ現実的な事になってきた。
俺が“本当に望むモノ”を伝えてもいい状況になっていると思う。
“理論的な部分”と“感情的な部分”を合わせた“両方の面”を持つ望み。
次にニシュを見かけた時は
『島から出てもニシュの傍に居たくて、みんなで島から脱出したい』と
俺の想っている事を伝えよう。