Eno.795 ロカ

夢を見る男

生まれ育った農村に毒の雨が降って。
村どころじゃなくて国中ぜーんぶに降ってて。
それからはずっと、その日のことだけをやり過ごして生きてきた。


本当にこの島は夢のよう。
何が夢のようって、こんな夢みたいなのに現実なのが最高なワケ。

クソあっつい日差し! ジメったい気温!
靴を貫いてきたなんか鋭利なものによる痛み!
それらが全力でここが現実と教えてくれる!

だから透明な水! うめぇ魚! うめぇ肉! うめぇ俺の料理!  
こっちも現実なんだって、安心させてくれる! ありがとう!!
いややっぱ痛みの機会は少ないほうがいいです。

夢みたいな豊かさで。
夢みたいな楽しさで。

夢を見られるようになったんだ。
眠っている時に見るほうじゃなくて。
信じてもないのにすがった奇跡じゃなくて。

現実の夢。未来の夢。希望の夢。


国の専門家は、雨の毒が少しずつ減ってきてるって言ってたっけ。
どうでもいいって、聞き流したニュースだったのに。
今は素直に、回復のきざしが来てたんだって、思えるんだ。


いつか農業やりたいとか、料理人もいいかもってはしゃいでたら、
クィラさまが、どっちもいいんじゃないかって、応援してくれた。
それもいいな~って、いつかを、思えるようになったんだ。

国に帰って、オッサンになっても、爺さんになっても。
まだ、土地が生き返らなくても、クソッタレって悪態をつきながら。
いつかを目指して、足を動かして、進んでいける気がするんだ。


クラリスの夢は生きることだって。
ちからづよすぎる。なんですか? この格好いい子。

アトラスの寝てる時に見る夢はなんだかしんどそう。
でもなんか笑ってる時もあるな。こっちのが多くなるといいな。

ヴィニアはどんな夢を見るんだろうな?
元の姿の夢? 今の姿の夢? どっちにせよふわふわしてそ~。

クィラさまは何だろう。
やっぱり、もっとでっかい森に…みたいな感じなのかな。
いいな~、そしたら俺の国まで、緑の加護が届いちゃうかも。

……なーんてな。そんな奇跡がなくても、もう大丈夫さ。
心配の言葉も、応援の言葉も、確かにもらったんだから。