Eno.322 Type-R

12日目

イザヤと話をした。
まさか彼の持ってきていたぬいぐるみがあんなものだとは思いもよらなかった。
僕が知らなかったという事は、ここで捨てて行くのが既定路線だったのかもしれない。
選択肢を奪ってしまったことは過ちかもしれないが。
過去における僕という存在もまた、同じ選択肢を選んだのならば。
それを繰り返しただけに過ぎないのだ。


言い訳だろうか。どうだろう。
……あるいは、何かのボタンが掛け違って。
ラザルの手元に行くのは、ルディが一番嫌だろう。
僕は『ラザル』でもあるのであの子の嫌な事をしたくはないのだ。


ネヌと解り合えるとは思っていないが。
あそこまで断絶されるとは少し思ってなかったな。
彼女が僕を憎もうが拒絶しようが正当な権利ではあるので、
それこそ自由にしてくれと思う。僕に対してだけは。
……どうか、自暴自棄にならないで欲しい。
僕が彼女に出来る事は、あまりにも少ない。
だからほんの少しだけ、他人の力を借りることにしたのだけれども。
どこまで上手く行くだろうか。それとも全く上手くいかないだろうか。
何も解らない。


そろそろ島が沈む頃合いだろうか。
上司から伝えられた僕の目的は、天使として『祈り』を知る事。
そもそも天使は祈れない。いや、条件を満たすことで祈りを知る。
万能な天使たる自身を人と同じ生命体という矮小なものと定義し、
『こころ』の底から神に向かって慈悲を『祈る』のだ。


祈り、所謂信仰心は神を動かし
天界を運用するためのリソースとなる。
要するに、燃料なのだ。


ラザルの元へ行ったルディが祈り出したのは、シュパーズの幸せを、無事を、祈ったからだ。
どうにもならなかったから。
天使として、何も出来なかった無力が数千年を加速させたのだ。
その経験と喪失の記憶を引き継いでいる僕達は全員に祈りを知る素質がある。
勿論僕自身にも。
祈りを知ったオリジナルは、神からの寵愛を受けるために天界の一角で祈りを捧げている。
自分に縁ある人間の幸せをただ只管に願っている。



中位天使は人の為に或るのだが。
僕たちはどうにも違うらしい。

僕達はいったい、何なんだろうね。
……まあ僕はその辺りは非常にどうでもいいが。
他の個体はどうだろうか。