Eno.571 みちる

遭難日誌その6~みちる編

 遭難六日目。

 私達は、ついに船を完成させた。その名も…

 UTMアルティメットリヴァイアサンかつお漁船海藻DXデラックス

 そう、

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 である!

 とても、とても、短いようで長い日々だった…!膨大な資材、必要な物資…それらを揃えるのに、どれほどの苦難を経たのか…!
 …といっても、私はただひたすら皆様の水を確保していただけだけれど…
 航海する分の貯蓄は万全、船の中も拠点のように…いや、拠点より快適な広々とした部屋で、船内を猫さんと一緒に回りながら楽しい一時を過ごした。
 あとは、このシマが沈む前に《レムリア》の遺産を…という話だったけれども、達成出来ただろうか。

 何にせよ、私達は脱出が出来る。それは確かだ。
 その前に、話さなければいけないことがある。…せっかく約束してくれたのに、こちらから破ってしまうのは申し訳ないけれども、きっとシスターなら分かってくれる。ずっと否定せず、頷いてくれたもの。…そう期待してしまうのも、少し、勝手だろうか。

 でも、私は家に帰りたい。
 お母さんに会いたい。
 もっと社会を、世界を知りたい。
 皆様とまたどこかを旅したり、お茶もしてみたい。
 今度こそ、わたしの足で、わたしだけの足で、前に進みたい。

 その為に乗り越えなければならないことはたくさんあるけれど…恐れずに、進んでいこう。

 私の人生は、まだこれからなのだから!


みちる


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「…おや、まぁ、そちらの"選択肢"を取りましたか。」

日本のどこか。がらくたのように詰め込まれた街の中の、薄暗い路地を抜けた先の店。異国情緒を漂わせるトルコランプが妖しく輝く店内に、中華風の衣装を身に纏う車椅子の女性が1人。
その手には、四方体の小さな【箱】があり、白いヴェールの先には、森の中で何かを書く紫髪の小さな少女がいる。


「結構、結構。これは、良きハッピーエンドとなるでしょう。」

ぱち、ぱち、と。
【箱】を空に浮かべたまま、長い袖から色白い手を出して2回ほど、ゆっくりとした拍手をする。
これは、"想定内のエンディング"だ。このシマに漂着した者らが良識があり、子供を正しく導ける善人であったが為に導かれた少女の結論。…一部を除いて、だが。


「…しかし、」

開かれた眼は、灰の色。まるで雨が降る前の曇り空。


「自らが蒔いた種は、刈り取らねばいけません。
 そう、自ら手を下した義父のように……言葉と決断の重さを、知らなければいけません。

 貴方は、求めました。
 貴方は、望みました。
 貴方は、頷きました。

 ええ、ええ、そう……彼女に。

【箱】はくるり、と回り、別の人物を中に映し出す。修道服に金髪を纏めた――

「さぁ、さぁ、どうなるでしょう。
 さて、さて、どのように終わるのでしょう。

 ナーサリーライムは観測しましょう。
 貴方達の行く末を。」

そう言って、女は口元に袖を当てた。
袖の下で彼女は……嗤っていたのだった。