Eno.795 ロカ

茸に手を出した男

それはジメジメ~っとした蒸し暑い日のことでした。
まぁその場所はいつもそんなんですがね、ともかく。

なんだかね、あやし~い気配がただよってくるんですよ。
こう、キのつく気配とでも言いますか。それがじわじわ~って。
なんだか楽しそうな感じもありましてね、それがまた不気味で。

その気配に誘われるように、ふっと、振り向くとね……。
…あるんですよ、キノコが! さっきまでそこに無かったのに!
知ってます? キノコ。毒の可能性があるんですよ。怖いですね~。

でも、どうしてだったんでしょう。
見ているうちに、ふらふら~ってね、手が伸びちゃったんですよ。
気がついたら……キノコが手の中にあったんです。ヒェ~~~!

そしてね、キノコに串を刺して、火にかざして炙っていました。
どうしてそんなことをしたのか、自分でも、わからないんです。
焼いただけで毒が消えるわけないって、知っていたはずなのに。

そんな、ちょっと温まっただけの危ないシロモノをですね…。
見つめているうちに、だんだん、口に近付けちゃいましてね。
そして──ぱくり!! 食べちゃったんです! ギャァ~~~!

まぁ結果から言えば見ての通りね、生きのこっております。
毒は、無いようでした…。一応しっかり栄養になったみたいです。

でも、ね。

それから、聞こえてくるんですよ、誰かの声が。
その場にいる誰の声でもない声が、なんだかね、頭の中に。
気のせいなら、いいんですがね……。

あとなんか小さく笑う声も聞こえてきましたね。
こっちは聞き覚えある声なんでいいんですけど。
え、誰の声か、って? 妖精さんですよ、妖精さん。

……ほら、もしかしたら、今、あなたの後ろにも──。