Eno.14 神崎 考希

神崎の手記(特別な星)

『聞こえてても聞こえなくてもいい。
 全員休んだ後、星を見る為に布材を集めてくれ!』

それを聞いて“星を見る”というモノを作る為に行動を開始した。
……必要素材についての説明をされたんだ。
それなら俺にも理解出来るし、欲しいモノなら作りたいと思う。
ただ、その説明には“誰に”という部分が無かった。

島の状況は時が経つ毎に、海面の上昇という分かりやすい形で変わっている。
この島が沈むのも事実だと言わざるを得ない。
つまりそれは、今すぐ集めないと手に入らない物だという証拠でもあった。

“誰に”見せるモノなのか分からないなら“全員に”見れるモノにしよう。
そうするのが普通だと考え、そうしたいと俺も思ったので、
まずは早く素材を集める必要があると判断した。


俺は布材が手に入りやすいという情報を聞いていた
漂流船へ行く事に決め、それを見つける為の準備に取り掛かった。
・見つけられるまで探せるよう俺を持たせる為のモノ
・見つけた素材を運ぶ為のモノ
・置いていけない大切なモノ
それだけを持って行こうと判断した。

みんなから預かっている大量の荷物は俺のモノでは無い。それを引き継ぐ人が必要だ。
俺が引き継げる者は居ないかと呼びかけると、
まだ俺の中で掛ける言葉が見つかっていない、エポラが名乗り出た。

俺は彼女の“大切なモノが壊れていた時に”直せるよう可能な限り備えている。
だが、彼女の方からそれが見つかったとも、見つかっていないとも聞いていない。
それを俺から聞く事は“大切なモノ”について考える
“きっかけ”を与えるモノだから、軽率にそんな事は出来なかった。
彼女の表情はとても明るく見える。信じてもいいのだろうか。
“良い結果”に辿り着けたと思ってもいいのだろうか。

分からないけど、今はそれに辿り着けたと
信じる事でしか彼女と接する事が出来なかった。
……荷物が多いから気を付けるようにとだけ告げてその場を後にした。
後ろから俺の名を呼んだ後に、頼んだぞと確かに聞こえた。
その事実だけあれば俺には充分だった。


一度探索に来た事のある場所だからと甘く見ていた。
船の状況は以前と違い、浸水という探索に不向きなモノに見舞われていた。
ただでさえ俺は体力が無い。その上この有様だ。
探索は思うように進んで行かなかった。

疲労と水温による体温の低下、それを持って来た水と食料でカバーする。
布材を持ち帰り“全員に”星を見せる為には倒れる訳にはいかない。
その為に医療セットも持って来た。
今はこの体すら貴重なリソースだったから。

そうして探索を繰り返し“全員に”星を見せられる事を願いながら布材を持ち帰った。
拠点に着いた時には、喋る事すら億劫な状態だった。
必要な分まで届いていたのか分からない俺は布材を拠点に置き、周りに確認を頼んだ。

“足りている”

その声を聞いてようやくホッとしかけた時に、もう一つ声が聞こえた。

“丁度足りたみたいだ”

……駄目だ。丁度では駄目なんだ。それだと“全員に”星を見せられない。
だが、これは俺の問題だ。“誰かに”ではなく“全員に”それを見せたいというのは
俺がそうするべきだと考え、そうしたいと思ったから“まだ足りていないんだ”
……丁度では駄目で、もう少し必要だと言った。
その後、少し休んだ後にもう一度行くともみんなに伝えた。
そうするとルーシーは、明るく。じゃあもうひとっ走り行ってくるよと言って、
拠点から去って行った。俺は呆気にとられその背を見送る事しか出来なかった。

“まだ足りていない”と言った理由すら聞かずに飛び出すのか……
『布を用いて作らなければそれを同じモノとは言えないから、
 “見えなくても”見える。布を使った星を作ろうとしている』
それぐらい聞いていくべきだろうと思ったが、既に彼女の姿は無かった。



ルーシーが布材を持って戻って来た。俺は感謝の言葉を伝えたが、
それにすら彼女はあまり興味を示さず、
治療が必要だと判断した者達へ少々乱暴な治療行為を施していた。
俺もこうしている場合ではない、ルーシーが取って来てくれた布材で星を作らないと。
星を見る時に、間に合っていなければ意味が無い。
“全員で”星を見る為のモノだから。

俺は気力を振り絞って“星型のクッション”を作った。

触って形の分かるモノなら“特別な”人にも星が見れる。
俺はようやく探索に行った事による疲労感を解消する為、横になれると安心した。
置いていけない大切なモノである“贈り物の花”を見ながら、俺は意識を手放した。