Eno.138 丁字 深令

前日譚~0日目

クルーズ旅行の一週間前。親友の丁字 美鈴ちょうじ みすずから一封の封筒が送られてきた。
美鈴からの連絡はいつだって急で、いつだって楽しい事だとわかっていた私はすぐに封を開ける。

中には1枚の便箋と、箔の貼ってあるお洒落な招待状。便箋の中身に目を通す。

「令深へ
クルーズ旅行の招待状をもらったけど海洋恐怖症で行けないから代わりに行ってきてくれる?
 あ、写真もよろしくね」

「美鈴め……」

ただで行けるクルーズ旅行。断るという選択肢はなかった。
急いで有給休暇をもぎ取って、スーツケースに着替えやシャンプーなどの日用品を詰め込む。
幸いこの時期は仕事が忙しくない時期で申請は無事に通り(通らなかったら無断欠勤してたけど)、今こうして豪華客船に揺られている。


……招待状の宛名には丁字 美鈴の文字が刻まれている。
流石に招待状外の人間が混ざっているのはあまりよくはないだろう、と偽名を使うことにした。
まあ偽名といっても招待された親友の名字を借りて、音の同じ漢字を使うだけだけど。
──クルーズ旅行の間は私は北窓 令深きたまど れみではなく、丁字 深令ちょうじ みれいだ。