Eno.220 ヤドリ

宿木の萌芽

水平線の向こうから長く鳴いていた、低く唸って響く音。
鯨の鳴き声だと思っていたそれは、大きく立派な船の姿で砂浜に打ち上げる波の向こうにやってきた。

焚き火から立ち上る煙か、打ち上げた花火の音か、とにかく俺たちがここにいることに気付いて助けにきた救助船。示し合わせたみたいに海面が少しずつ上がって、この島の冒険の終わりが唐突に顔を見せた。

名残惜しいと思う。短くも一緒に過ごした仲間を、厳しくも豊かだったこの場所を、経験と彩りに満ちた生活を、手放したくない。……これはただのわがままだ。綺麗な思い出と一緒に、未来まで沈めるわけにはいかない。
それぞれの待っている人のところへ、あるいは帰るべき居場所へ、笑って帰ることができたとき。
そのときに、これが綺麗な思い出として完成するのだから。

……でも俺は、どこに?
俺の名前を呼んでくれる人のいないあの島に戻ったら、俺は『ヤドリ』ではなくなるんだろうか。
勇者を引き受けるより前の日のことを何一つ思い出せないように、何も変わらない日々を過ごしていたら、ここでの記憶も削れて薄れてしまうんだろうか。

勇者はい』か、『ヤドリいいえ』のどちらかしか選べないのだとしたら。

盲目のままに愛せなくなってしまった停滞も、ゴールの見えない役割も捨てて、逃げ出そう。

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ヤドリは ゆうしゃのしかく をうしなった。