Eno.939 傘音

教えていたひとつ

死に場所は世界でいちばん綺麗なもので、だからワタシは惹かれた。ここを終着としたいと思った。
だけどその前に出会ったあいつだって、ワタシにとってはその他の有象無象とは違ったんだ。

生まれた家に馴染めなかったあいつ。だから逃げ出してきたあいつ。
あいつは、ワタシがずっとできていない逃げ出すってことを生きたままやってのけていたんだ。
だからワタシはそれに興味が湧いて、あいつとずっと近くに居た。

話してみれば生まれた場所が気に食わないもの同士気があった。あいつは何が起きようと離れていこうとしなかった。
ワタシだってあいつに興味を無くすことはなかった。多分、それだけでよかったんだ。
あいつの傍だって、ワタシには居心地がよかった。
ずっとを願っていた。

世界で一番綺麗なあの人。見つめるだけで心が輝くようで、浮き立って、なんだか興奮してどうしようもなかった。この死に場所のためならなんだってやりたいって思った。
ワタシと同じ環境を知っているあいつ。話していると時間はあっという間に過ぎて、傍にいても落ち着いて、安心した穏やかな気持ちでいられた。あいつならゆるしてやってもいいと思えることばかりだった。


特別に想う誰かなんてワタシにできる筈もないと思っていたし、興味無かった。
だけど、あの人とあいつは間違い無くワタシの特別だった。


そうだよ。
お前だって同列に特別だってワタシはちゃんと言ったぞ。



だからワタシは、あの日、二人にちゃんと言うつもりだったんだ。