Eno.526 鍋島直哉

誰が為に鐘は鳴る

ふざけたギャンブル好きのジジイと、俺。たまにばあさんしかいないうちの店には、
たまに、
クラスメイトが来る。

・誰が為に鐘は鳴る ――おやつのため


豪麗は、たまに店に来る。
その時は決まって表情が異常に硬いが、これはいつも通りだ。
ただ、眉の上がり下がりと、注文で判断できる。

「水晶鶏3皿」の注文の時は、こいつがトレ中だか減量中に、
耐えきれそうにねえから肉食いたい時らしい。
全く食っちゃいけないタイミングもあるらしいが、俺にはよくわかるわけもない。

で……、機嫌が良さそうか、完全に目が据わってるときのメニューはあれで決まり。
今日も、奴が店にやってきて目礼したときの、その目つきで既に俺の作るものは決まっていた。

「餃子」、だ。

うちはニラと白菜と豚肉とショウガで、ニンニクは入れない。
自家製の中華スープを入れて具を練り、熟成させてから薄めの皮で包む。
1日以上作り置きを置かないことがうまさのヒケツ。
……らしい。
まあ、実際悔しいが美味いレシピだ。
恐ろしいことに、昔の中国人が日本人向けにアレンジしたレシピをほぼそのまま使えているらしい。
結局美味い味は美味いんだよ、現代人向けにアレンジしてもな。

――話を戻す。豪麗は、あまり頻度は高くないが家に来ているが、
こうしてやってきた日の注文は……

「餃子を、10人前――」

頼めるかどうかを、水を運ぶ震えたばあさんに尋ねている。が……

「はいよお、じゅうにんまえ」
「アイヨッ」

予想通りだし、アイヨッじゃねえ。作るのは俺だ。そう、ジジイの嫁のばあさんは、
すっかり慣れてランチを過ぎてからの急な餃子10皿ぐらいではいちいちお伺いを立てに来ない。
ジジイは最近サボっているから絶対俺に作らせる気だ。返事だけは元気がいい。

ま、いいけどな。餃子の腕もあげておきたい。
朝仕込んだ餃子を脂を引いた鉄板に並べる。
それから中華スープを塩無しで注ぎ込み、
激しい音を立てはじめるのですぐ、フタをする。

後は放っておいて、音が変わったらすぐフタをあけて、火力をあげて、
焦げ目がついたら終わり。

これを10人前は多少大変だが、愚痴るほどではない。
いちいち「餃子を頼みたいが迷惑か」と聞かれて、
昼時を避けたら別にいつでもいい、と答えたら、
あのように、腹を空かせても15:00にやってくる。


いじらしいこって。
俺は気を引き締めながら、餃子の一番旨い仕上がりを聞く。
フツフツとした音が、香ばしく弾ける音になったとき、だ。

奴にはたっぷり栄養をつけ、筋肉にして頑張ってもらいたい。
んで、有名選手になって、うちを宣伝してくれ。潰れる。

・女って意外と食う

ナマイキナナコは、自分からうちには来ない。
親が大ファンで、その付き合いで連れてこられてる感じ、だ。

ちょっと視線が合っただけで「ちょっとぉー、鍋島ぁ、無視?」なんて言うが俺の手元見ろ、
お前の注文炒めてんだよ。
回鍋肉は肉を酒でもみ込んで、特製の調味料でつけおくとまろみのある旨味が残る。

多分、自分から進んでウチみたいな町の中華を選ぶわけじゃないだろうが、
家族といるあいつはそこそこ、いつも楽しそう。
に、見える。

写真は俺とじゃなくて家族と撮影しろ。
じじい、おめえはうつんな!

・半ラーメン半チャーハン半餃子セットて

「多いって」
「食えっから!」

いいから、いいから!
……じじいの安請け合いに辟易としながら、俺は新メニューを作り始めた。
誰だよ、「半ラーメン半チャーハン半餃子セット」なんて頼んだ奴。
めちゃくちゃ色々食べたい割りに食が細い人間か?

料理を作って運んで、驚いた。
長曾我部なんだよな……こいつそんな食ったっけ?

ただ、驚くべきことにこいつはそれをすべて完食。気をよくしたじじいのプレゼントの杏仁豆腐もたいらげ、次回からはメニューを1つずつ、
「半」の字を外していくとまで言いだした。

結果として、今はあいつの食うメニューはもう予想がつくだろう。「ラーメン炒飯餃子セット」、だ。
単品注文よりセットでお安い1180円。潰れる。

・「エビチリ感謝デー」

「今日アレな」
「アレ?」
「アレだよ、アレッ」
「は?」
「アレの日!」
「…………最悪な下ネタ言おうとしてんのか?病院の日とかか」
「ちげェーよッ!思い出した、”エビチリ”。今日エビチリの日だぞ」

溜息を吐いた。知らん、そんな日。と言いたいところだが、これは俺は、恩に着る話である。

クラスメイトの夏月は、うちに来るのは概ね、15時とか16時に、山盛りのチャーシューエッグセットを食って帰る。
見た目のわりに食うんだ、あいつ。
ただ、弁当食いながらあいつが言ってんのを聞いたことがある。

「冷凍食品のエビチリでも高ぇんだもん、本物のエビチリなんていつ食えるんだか」

……………ううん。
じじいに一応、聞いたわけよ。「うちって偽モンのエビチリやってんのか?」って。
即答で「違ぇやバカヤロイッショイ」と言われた。

んでまあ、夏月が来た日。あいつにエビチリをおまけで出したわけだ。
驚いてたな、頼んでないもんが届いたんだから。
俺も金がない。答えは「まかない」だ。うちはペキンダックとか言いださなきゃ自由だから。
俺は後でコンビニのパンでもかじるか、と思っていたら、
じじいが「毎週木曜はエビチリの日!客足寂しい14:00~17:00に来てくれたお客さんに、ミニエビチリサービス!」
ってどでけえ声で叫び出したわけ。

うるせえぞ、って怒鳴り返したんだが、じじいが外に飛び出ていく。
もーどうでもよくなって、夏月に「ちゃんとしたもんだから」と食わせて。

こいつ、好きなもん結構ゆっくり食うタイプなんだな、とどうでもいいことを思った。

ちなみにジジイはエビチリデーがお得だからとかどうとか騒ぎ立てて、ギャンブル仲間を店に連れてきて、
「エビチリデーもう終わってるよ」って急に素面の顔でエビチリ食わして金取ってた。

・ ……点心好きか?

意外なことに、こいつ蒸し料理好きなんだよな。

上井は、仲間らと大騒ぎでウチにきちゃあ、まあデカいチャーハンだ炒めもんだを頼んで分けて綺麗に片付けてくんだけど。案外そういうもんに手が出てない。
場を盛り下げない程度に食い、飲み。って感じで。

だから、珍しく一人で来た時?多分待ち合わせがキャンセルしたんかな。
メニュー見て悩んだ後、
「珍しい料理がいい」っつうわけ。

迷った。珍しいって何だ?ウチ普通の中華だぞって。
まあ、めんどくせえから「喰いたいもんは」って聞いた。
そしたら「なんかさっぱりしててあったかいやつ」とか言う。

ラーメン?じゃねえし、んじゃまあ、これか。ってなって、
三種の焼売とか、そういうのを出したわけ。
海老が綺麗に透明に見えてる米粉のがお気に召したみたいだな。

ま、あいつ大勢で来るときは頼まねえけどな。

・オウあんまん今日から追加!じゃねえんだよ

じゃねえんだよ。
と、キレながら俺は饅頭の生地をこさえている。

じじいは若い女に弱い。
姉ちゃんには鼻の下を伸ばし、
高校生ぐらいは「孫」扱いでデレデレだ。

クラスメイトの佐藤が来た時もデレッデレしやがってよ。
「もちかえりのあんまんと、にくまんありますか」って聞かれて、
「オウあんまん今日から追加!」だよ。ねえよバカ。

饅頭の生地はまあある。
今暇だし作業もできる。
つってもこういうのは普通せめて店主が……

あーできちまった。
とりあえず、ただ丸い形のあんまん。
と、黄色くて鳥の形の、カスタードクリーム入りのカスタードまんを作ってやった。
うちだとハリネズミの形のまんじゅうを揚げて、そん中に入れるんだけどな。

めちゃくちゃ喜んで帰って行ったし、ま、よかったな。
ジジイは後でシメた。

・ソフトクリーム食いに店に中華屋くんのはなんでだよ

「糖分取りにウチくんなら炒飯とかだろ」
「すぐに栄養価になるのは炭水化物ではなく、よく咀嚼された糖分なんだよ鍋島くん!」

――これはそんな長くならないから安心しろ。
なんせ、料理を作る工程がねえ。

うちに来た大羽は、普通に飯を食った後で、めざとく室内の登旗に目を付けた。
「スタージャのミルクアイスがある!?」、と。

はい、まあ、ある。スタージャ契約してる。
じじい曰く「体に良いし健康的だから」だそうだ。
俺はまあ、ちょっと高い気がするのが正直なところだが。

で、普段使いもしねえのに掃除だけさせられてる俺が、
久しぶりに客にバレたから、スタージャ社のアイス機械を起動して、
ソフトクリームを作ってる。

コーンねえからパイ生地だぞっつったら「グッドサイエンス!」だそうだ。
はいまあ、いいのな。

とりあえず、山の形にソフトクリームを描いて渡すと、
大羽はいたくご機嫌で、黄金比がどうの、形状がどうの、と能書きをたれていたが、溶けはじめるぞ、と俺が言うと、
さっさと食べ始めた。

この女のこういう利が取れるところは面白いな。