Eno.311 防寒着

無題

 どこにでもあるような量産品だった。それがどうして人の形を真似て動き始めたのかは、わたしもよく知らない。
 ひとつ確かなことがあるとすれば、……いくらでも替えの効く服なんて、ましてやこんなぼろぼろになったものなんて、すぐに捨てられてしまうだろうということ。

 わたしに拘る意味など無いのだ。上下合わせて2万にも届けばいいほうだろう、その程度の服一着など。
 自分の意志で動いたから、だからなんだというのか。真っ当に考えればそれだって不良品の要素だろう。



 何も考えず、与えられたものに無邪気に喜んで、そうして何食わぬ顔で船に乗り込めばよかった。
 そうしなかったのは、続く未来のことを考えたから。

 この島での出来事はみんな楽しくて、生きるのに必死で、充実していた。宝物のような思い出になった。
 だから、ここで死ねば。
 そうすれば、わたしはわたしのまま、替えが効く量産品ではなく、この島で過ごしたわたしのままで終われるんじゃないかと思ったのだ。
 だから、

「……せっかく作ってくれたのになあ」

「ごめんね」

流されていく小さな箱に、そんなふうに声を掛けた。