Eno.318 ミュステ

カノンペル村にて・破

朝。
木々の挾間から陽光が差し込み、山中の村を照らす。

その前からもう人々は起き出し、仕事に励んでいる。
薪を割る音。火を炊く煙。鶏の鳴き声。

ふと村民の一人が、山頂側の入り口に見慣れぬ姿をふたつ認める。


ウニ頭の男
「あの野郎適当ぶっこきやがって……朝になっちまった」


首輪をされた仔竜
「……」


門をくぐろうとする一人と一匹に村民が声をかける。

村民
「おやあんた、狩人さんじゃなさそうだが……
 その仔、使い魔……かい?」


村民は仔竜をすこし怪訝そうに見つめる。

ウニ頭の男
「まぁな。
 ちょいと探しものだ。物知りなヤツはいるか?」


村民
「村長さまならそうだが……何を探しとるんだい?」


ウニ頭の男
「使い魔モドキだ。この村にいるらしいと聞いた」


村民の顔がにわかに険しくなる。

―――*―――*―――*―――

しばらくの後、山を登ってくる側の入り口に、サッコ・ベノとエリオ・エリキサの姿があった。
二人は門に刻まれた『カノンペル村』の文字を認め、しかし違和感に首を傾げる。


エリオ
「なんか……静かじゃない?
 日の出もだいぶ過ぎたのにさ……」


サッコ
「……」


門をくぐり、村をゆく。どこの家にも人の気配はない。
朝方の山とみても異様な冷気が、二人―――あるいはサッコのカバンの中に潜むレグルの身体をも震わせる。

やがて彼らは、氷漬けになった人々が、大ぶりな家の前に転がっているのを目の当たりにする。


エリオ
「はっ……!? な、なに、これ……!」


サッコ
「あの家の中だ! 何か起きてる! 行くぞ!」


家の中に駆け込むサッコ、それを追うエリオ。

―――*―――*―――*―――

ウニ頭の男
「さあ、言いな。
 村長さんよ」


年老いた竜人
「……」


家の中ではウニ頭の男と、年老いた竜人―――カノンペルの村長が対峙していた。
彼は口を固く結び、開こうとしない。


ウニ頭の男
「この村の連中一人ずつブッ壊してやってもいいんだぜ。
 どうせこんな田舎だ、TGだって助けにゃ来やしない」


村長
「ワシらは何も知らんと言っている。
 キサマが誰に吹き込まれてここへ来たかは知らんが、無駄足だ」


ウニ頭の男
「はッ……知らねーからって舐めんじゃねーよ。
 エルギ・シンジケートをなァ……」


ウニ頭の男が村長の胸ぐらに掴みかかったところへ、サッコたちが飛び込んでくる。

サッコ
「ッ……てめェ!
 ザグザ・ジッグ!!


ザグザと呼ばれたウニ頭の男は振り返る。

ザグザ
「クソガキ……
 お前、なんでここに……?」


サッコ
「てめェこそなンだッ!
 外のもてめェの仕業か!?」


ザグザ
「はッ……教えてやるよ。
 やれ、アノーヴァ―――!」


首輪をされた仔竜
「……!」


ザグザの指示を受け、アノーヴァと呼ばれた仔竜は目をつむり念じる。
周囲の冷気が、ひときわ強まる。


サッコ
「チィッ!!」


とっさに危機を悟ったサッコは、笠の裏からクラゲの触手のように延びる帯状の共生カビを動かした。
伸縮自在のカビを四筋飛ばして屋根の梁に絡め、エリオの手を取り、収縮させて共に上方へと逃れようとする。
が、冷気は追いすがり、二人を捉えた。


サッコ
「ッあ……!?」


エリオ
「わぁあ……ッ!!」


二人の体が足元から白く染まり、凍りついていく。

ザグザ
「仕事の邪魔すんな、クソガキ」


サッコ
「てっ……めぇ……ッ!!」



アノーヴァ
「……。」


仔竜は念じ続ける。
閉じた目から、一筋涙が落ちる。