*『エピローグ』
どうにかと水を確保しては飲んで。 いくらかの命を確保しては食べて。
――そうして、この島に流れ着いてから七度目の朝日が登ったのち。
*ボォ~~~~~~*
島に響く大きな汽笛の音。
浜へ出れば、調査船らしきクルーザーが沖合に停泊している。
……しばらくすると、研究員のような白衣が小舟で浜までやってきた。
「――ほう、ほうほうほう! これはこれは……
火球とも異なる発光現象が観測されたと聞きましたから、思わず出張ってきましたが……なるほど」
「ご挨拶が遅れました。
私はここより少し離れた海で、この海を調査する一介の研究員にありまして――」
「――今まさに、新たな発見をした、という所にございます」
瓶底眼鏡があなたを見やる。
「いやはや、あなた達は大変に運がいい。
この海域……人呼んで『絶海領域』はまもなく"海開き"と相成ります」
「もちろん、ただの海開きではありません。
海が世界の境界を開き、他の海という海と繋がるのです!」
「海と繋がるということは、つまりこの海の"かさ"が増えるというもの。
このあたりの島という島は皆沈んでしまうでしょう」
「ですがご安心を!
海が繋がるというのは、世界との接続を得るのと同義。
それはつまり――"帰り道が現れる"ということでもあります」
「そして、私めは生存者の保護および送還の任も承っておりまして。
有り体に言えば"アナタ達を救助することができる"という次第にございます」
にや、と怪しげに笑う研究員。
振る舞いの怪しさとは裏腹に、示す身分証は正当なものに見える。
「ああいやお代はいりませんとも!
この海は探るだけでお宝が出るのですから、幸い研究費には困っておらず」
「ですから、きちんと責任をもってアナタを元の海へと送り届けましょう。
ただ、一点だけ――」
「先の発光現象、あちらの漂着船、島での暮らし……
積もる話だけお聞かせいただければ、有難く存じます」
「それでは、準備ができたらお声かけください。
私はもうしばらく、この海の様子を見ておりますので」
「恐らくはウィルシャードの反応現象でしょうが、それにしては規模が大きいような気もしますねエ。
アレによほどのエネルギーを叩きつけたか、あるいは何かイレギュラーが……」
何かをぶつぶつ言いながら、研究員らしき白衣は陽気に船内へと戻っていく……
あなたは、この島で何かを得られただろうか?
それとも……何かを失ったきりの、ただの災難だっただろうか?
――短くも長い孤島での非日常は、ようやく終わりを迎えつつある。