追憶
幸せになるよりも、幸せを奪う方が容易い。
そんな簡単なことさえ気付くのに随分とかかった。
俺はそれなりに理想を信じ、夢に向かって歩き続ける人間であったから。
手品師を志して田舎を飛び出した所までは良かった。
田舎者がマフィアの運営する事務所と契約を交わしてしまい、多額の契約金に苦しむまでそう大した月日も必要なかった。
売れれば何の問題も無い。
けれども、結局人気も出ず売れなかった。
つまり、俺が至らなかっただけの話。
やがて払いきれなくなった契約金を返す為に、そのマフィアに雇われることにした。
今度は借金を取り立てる側だ。
その時やっと、幸福は奪う方が早く容易いと気付けたのだ。
日本人は騙し易い。
相談をせず抱え込み、その癖自ら動かずに被害者面をする。
そんな奴らを狙ってから、金には困らなくなった。
あっというまに借金は返済できた。
本名は暫く口にしていない。
それでも時々、誰かに呼ばれた気がして振り返る。
勿論、誰もいない。
当然だ。
この国に、俺の名前を知る人間はいないのだから。
もう日本にいる必要は無い。
金を稼ぐ理由も無い。
それなのに、他者から奪う事を辞められない自分がいる。
とんだ悪癖を得てしまったものだ。
こんな人間の末路など、高が知れている。
「アイツさえいなけりゃなあ……」
話はここで終いになるというのに。
やり返さなければ、どうにも気が収まらないのだ。