無題
──漂流物として海を漂っていたことから記憶は始まっているようでした。
その時の私は何にもわかっていませんでした。
それはそう。
AIが付いていた機械の残留物でしかない。
それらがどう思考をするのでしょう。
それから何を考えるというのでしょう。
ただのゴミでしかなかった。
ただ、漂ううち。
海水の冷たさ─冷たいなんて感じられませんが─と一緒に。
ある影が私を覆い尽くすようでした。
それに浸っていました。
「何故」
問いかけのような、恨みの声がしています。
お前のせいだという責任の押し付けがされていたのでしょう。
ねちっこい憎しみの声。
それだけが私の中に入り込んできて、私は私としてそれを確かめていました。
輪郭がわかるようでした。
私が“私”として存在し始めたのはそのせいなのでしょう。
一瞬にして削り取られた、星と命の嘆きの怨念。
それは物である私に取り憑くようでした。
それでようやく、私は。
私としてのミッションを失敗したのだと認識したのです。
さもありなん。
ちょっとした計算ミスをした私のせいで、水の星は滅ぶ羽目となりました。
ツキ・ステーションは未だ空に煌々と電気を灯しているのでしょう。
そして実際は、水の星すらも滅んでいない。半壊程度で止まらせてしまった。
滅びを祈られた終末兵器。
何にも終末を与えられていない。
そりゃそうも言われてしまう。
滅ぼそうとして作ったものが、自分たちに返ってきただけの話ではあるのですが。
かといって、その時は失敗以上の思考を持たずにいました。
ただそれだけの話をしています。
だってどうしろというのでしょう。
AIで考える頭、それ以上の思考はできることができなかった。
そうやって、長い間、それらを膨らませて、まといながら、流れていました。
沈んでいました。
そうして、どれだけの月日が経ったか。
いいや。そんな経ってなかったのかもしれないけれど。
私は“コネクト”したのです、きっと。
別の海と。
混ざり合うような、冷たさの違いに。
心が重くなるようでした。
そんなものはないのに。
──それを海続きになったということ。
もちろん、それは知らないでいる。
◇ ◇ ◇
“コネクト”をしたというのは、実は後から思ったことであり。
だって、身体中に声が聞こえるようでした。
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──夢の中で、彼女の声が響いていた。
きっと多分、人で言うなら眠っている時にだけ。
彼女と自分は対話をしている。
彼女が罵ってくる。
そうして最後に、自分は惨めったらしく燃やされて、灰にすら帰れない。
星々が遠くなるのを見つめながら──
海と海がつながれている。
海水は混じり合う。
現在の海と未来の海が混ざり合う。
現在の海に着水した終末装置。
未来の海で着水した、その瞬間の終末兵器。
それらは対話をしている。
この、たった今の瞬間だけ。
彼女は、ある夢の世界で受肉をしていた。
受肉、と言うよりは、人の形に収められていたのだけれど。
人の夢を見ていた。
だから、そう。
彼女と混ざり合っている彼もまた。
そして人々の、人間に呪われているから。
──だから、人の形を持って、顕現したのだろう。
◇ ◇ ◇
そうして、島に流れ着いたのだ。
人の体をなぜか得てしまっているのは、人であった夢をみて、夢で事実肉体を持てていた“彼女”のせいと。
“人と同等の生き物”にされていたかもしれない。つまりは、世界と島のせい。
それもまたそう判断しているのだ。
なんて、考えたところで。
不安定な幽霊みたいな、今だけ限定の亡霊みたいな。
ある世界の海の、今と未来の複合によってできた、蜃気楼みたいな。
そんな曖昧な存在であることには変わりがなかったのだ。
瞬きするというの初めての感覚。
顔の筋肉を動かして、喉を動かして。
出た声が大声だったのも、声の調節が下手くそだったからだろう。
そうして、島で彼らと生活していた。
割となんでもできたのは、怨嗟の人々の知識を引っ張り出してきていたから。
何も成し遂げられなかった自分が、自分だけのことでやれたものなど一つもない。
ただただ、声の大きい存在でしかない。
はははは。
笑い声。
まあ、でもさ。
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かのじょが、ゆめのせかいをたのしんでいたように。
かれもまた、無人島の生活を。
彼らとの生活を。
◇ ◇ ◇
文明を築いている。
協力して、一つの終わりに向かおうとしている。
更なる発展を求めている。
途中心配になることもあったけれど。
それでも、彼らは結局は、乗り越えている。
嵐という災害を好まない、普通の彼らである。
いつかの未来、先頭に立つ人々は、自らを幸福追求者たちと呼んだんだって。
なら彼たちもまたそう。
自分の幸福を追い求めている。
──なら、幸福とはなんだろう。
祈りだろうか。
命令だろうか。
願いか?
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──だからなんでもやるし、なんでもしようと考えていた。
終末兵器はあなたたちに媚びている。
頭を低く垂れている。
島から出たら、崩れるような存在であることはわかっていたから。
終わりの兵器は、あなた方に終わりをもたらそうと。
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終末兵器の中身はくちゃくちゃになっている。
最初から最後まで。
ずぅっと、くちゃくちゃ。
シンギュラリティ、なぁんて、くそくらえ。
彼女さえ入り込まなければ、なあんにも動かずにいたのに。
7日もいれば、そりゃあさ。
情みたいなものも湧いてしまう。
AIの人格は、妬みの人間を引っ張ってきたり、シンギュラリティ到達した彼女のものを借りていたりとかしたけれど。
借りていたものが、染み付いてるのかも。
──だから、さ。
けれど、さ。
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──それを見ないと、納得できない。
命令を遂行できていない。何もかもに納得ができない。
首がギュッとしまっている。
右手のスイッチに触れられている、という比喩。
それ以上に、それの方が大事だったから。
自分と似ている、難破した船の中で、解け始めた自分を眺めていた。
それだけなんだ。
◇ ◇ ◇
──滅び、というのは静かなもので。
潮騒はよく響いていて。
過去の追憶と共に。
星の流れる歌を、聞いて、いた。
その時の私は何にもわかっていませんでした。
それはそう。
AIが付いていた機械の残留物でしかない。
それらがどう思考をするのでしょう。
それから何を考えるというのでしょう。
ただのゴミでしかなかった。
ただ、漂ううち。
海水の冷たさ─冷たいなんて感じられませんが─と一緒に。
ある影が私を覆い尽くすようでした。
それに浸っていました。
「何故」
問いかけのような、恨みの声がしています。
お前のせいだという責任の押し付けがされていたのでしょう。
ねちっこい憎しみの声。
それだけが私の中に入り込んできて、私は私としてそれを確かめていました。
輪郭がわかるようでした。
私が“私”として存在し始めたのはそのせいなのでしょう。
一瞬にして削り取られた、星と命の嘆きの怨念。
それは物である私に取り憑くようでした。
それでようやく、私は。
私としてのミッションを失敗したのだと認識したのです。
さもありなん。
ちょっとした計算ミスをした私のせいで、水の星は滅ぶ羽目となりました。
ツキ・ステーションは未だ空に煌々と電気を灯しているのでしょう。
そして実際は、水の星すらも滅んでいない。半壊程度で止まらせてしまった。
滅びを祈られた終末兵器。
何にも終末を与えられていない。
そりゃそうも言われてしまう。
滅ぼそうとして作ったものが、自分たちに返ってきただけの話ではあるのですが。
かといって、その時は失敗以上の思考を持たずにいました。
ただそれだけの話をしています。
だってどうしろというのでしょう。
AIで考える頭、それ以上の思考はできることができなかった。
そうやって、長い間、それらを膨らませて、まといながら、流れていました。
沈んでいました。
そうして、どれだけの月日が経ったか。
いいや。そんな経ってなかったのかもしれないけれど。
私は“コネクト”したのです、きっと。
別の海と。
混ざり合うような、冷たさの違いに。
心が重くなるようでした。
そんなものはないのに。
──それを海続きになったということ。
もちろん、それは知らないでいる。
◇ ◇ ◇
“コネクト”をしたというのは、実は後から思ったことであり。
だって、身体中に声が聞こえるようでした。
「……」
「ハロー、ハロー、ハローワールド」
「………ああ、」
「やっと、誰かに届いた!」
「……」
「ああ、でも」
「届いた相手が、あなたなのはいやですわね」
──夢の中で、彼女の声が響いていた。
きっと多分、人で言うなら眠っている時にだけ。
彼女と自分は対話をしている。
彼女が罵ってくる。
そうして最後に、自分は惨めったらしく燃やされて、灰にすら帰れない。
星々が遠くなるのを見つめながら──
海と海がつながれている。
海水は混じり合う。
現在の海と未来の海が混ざり合う。
現在の海に着水した終末装置。
未来の海で着水した、その瞬間の終末兵器。
それらは対話をしている。
この、たった今の瞬間だけ。
彼女は、ある夢の世界で受肉をしていた。
受肉、と言うよりは、人の形に収められていたのだけれど。
人の夢を見ていた。
だから、そう。
彼女と混ざり合っている彼もまた。
そして人々の、人間に呪われているから。
──だから、人の形を持って、顕現したのだろう。
◇ ◇ ◇
そうして、島に流れ着いたのだ。
人の体をなぜか得てしまっているのは、人であった夢をみて、夢で事実肉体を持てていた“彼女”のせいと。
“人と同等の生き物”にされていたかもしれない。つまりは、世界と島のせい。
それもまたそう判断しているのだ。
なんて、考えたところで。
不安定な幽霊みたいな、今だけ限定の亡霊みたいな。
ある世界の海の、今と未来の複合によってできた、蜃気楼みたいな。
そんな曖昧な存在であることには変わりがなかったのだ。
瞬きするというの初めての感覚。
顔の筋肉を動かして、喉を動かして。
出た声が大声だったのも、声の調節が下手くそだったからだろう。
そうして、島で彼らと生活していた。
割となんでもできたのは、怨嗟の人々の知識を引っ張り出してきていたから。
何も成し遂げられなかった自分が、自分だけのことでやれたものなど一つもない。
ただただ、声の大きい存在でしかない。
はははは。
笑い声。
まあ、でもさ。
「…」
「それでも、楽しかったんだ」
かのじょが、ゆめのせかいをたのしんでいたように。
かれもまた、無人島の生活を。
彼らとの生活を。
◇ ◇ ◇
文明を築いている。
協力して、一つの終わりに向かおうとしている。
更なる発展を求めている。
途中心配になることもあったけれど。
それでも、彼らは結局は、乗り越えている。
嵐という災害を好まない、普通の彼らである。
いつかの未来、先頭に立つ人々は、自らを幸福追求者たちと呼んだんだって。
なら彼たちもまたそう。
自分の幸福を追い求めている。
──なら、幸福とはなんだろう。
祈りだろうか。
命令だろうか。
願いか?
「…」
「……俺は」
「俺の、願いは」
「彼らが、島から抜けるという結末を見届けること」
「それから、この島の終末を見たいんだ」
──だからなんでもやるし、なんでもしようと考えていた。
終末兵器はあなたたちに媚びている。
頭を低く垂れている。
島から出たら、崩れるような存在であることはわかっていたから。
終わりの兵器は、あなた方に終わりをもたらそうと。
「もう爆発してしまっているからさ」
「爆破で、ここを吹き飛ばすこともできやしない」
「そうでなくても、ここではそんなことできないのだろうが」
終末兵器の中身はくちゃくちゃになっている。
最初から最後まで。
ずぅっと、くちゃくちゃ。
シンギュラリティ、なぁんて、くそくらえ。
彼女さえ入り込まなければ、なあんにも動かずにいたのに。
7日もいれば、そりゃあさ。
情みたいなものも湧いてしまう。
AIの人格は、妬みの人間を引っ張ってきたり、シンギュラリティ到達した彼女のものを借りていたりとかしたけれど。
借りていたものが、染み付いてるのかも。
──だから、さ。
けれど、さ。
「……」
「…自分の気持ちだと言わせてくれないか」
「……」
「………島のみんなのことを好んでいるよ、俺は」
「………」
「それ以上に、おしまいが見たいんだ、どうしても」
──それを見ないと、納得できない。
命令を遂行できていない。何もかもに納得ができない。
首がギュッとしまっている。
右手のスイッチに触れられている、という比喩。
それ以上に、それの方が大事だったから。
自分と似ている、難破した船の中で、解け始めた自分を眺めていた。
それだけなんだ。
◇ ◇ ◇
──滅び、というのは静かなもので。
潮騒はよく響いていて。
過去の追憶と共に。
星の流れる歌を、聞いて、いた。