Eno.318 ミュステ

カノンペル村にて・急

時刻は少しさかのぼる。

村の居住区画からいくらか離れた池。
川ともつながるその場所に、『光』が空から飛来し、そして消えた。

人に近い姿をしたネコナマズ―――ミュステが、きょとんと水面から顔を出し、あたりを見回している。
その後ろでは財宝やら道具やらを積んだソリが沈みかけている。


ミュステ
「へ、こ、ここ……
 かっ、帰ってこれたにゃん!?
 みゅーん! ムラオサさまーっ!!」


ミュステは大きく飛び跳ねて上陸する。
そのままぬたぬたと身体を躍動させ、二本足の生き物に劣らぬ速さで突き進んだ。ロープで繋がれたソリと共に。


―――*―――*―――*―――

ふたたび村長の家。
氷漬けになりつつあるサッコの前で、ザグザは拳銃を抜いていた。


ザグザ
「さんざ困らせやがって。
 お前は、ここで死んどけ!」


引き金に力を込めた、その刹那。

ミュステ
「ん゛にゃぁあああッ!!」


飛び込むミュステ。
振りかぶり、放り投げた金ダライがサッコの頭上を通過し、ザグザの顔面を直撃した。


ザグザ
「ンがッ―――」


取り落とした拳銃が床に当たって快音を響かせる。
直後、小さな月が宙を駆けた。


アノーヴァ
「!!」


薄く鋭い月が光の弧を描いたかと思うと、アノーヴァの首輪がぱっくりと両断され、落ちた。
彼女はそのままぐったりと倒れ込む―――それと同時に、サッコとエリオの身体にまとわりついていた氷が、白煙を上げて消え去っていく。


サッコ
「ッ! ムーフォー!?」


レグル
「サッコっ!」


レグルが家の外から飛んできて、小さな月―――ムーフォーが彼の元へ戻っていく。
サッコは、自分のカバンがいつの間にか開いていたことに気づいた。


ザグザ
「っ、この……」


上半身だけを起こし、ぐっ、と念じるザグザ。
頭を覆うトゲのうち、正面に向くものが震えたかと思うと、急激に伸び上がる。

が、それがサッコたちを刺し貫くより先に、彼は空気の震動をとらえた。


サッコ
「だらァーッ!!」


サッコの右手の中に、紫色の木の根のような異形のムチがあった。
それは振るわれると長く伸び、いくつもの筋でザグザを取り囲み、うち一つで強かに身体を打った。


ザグザ
「げはッ……か……」


ザグザの身体を急速にしびれが襲う。
ムチは、サッコの体内に蓄えられている麻痺毒を流し込む力を持っていた。

ザグザはびくびくと痙攣しながら仰向けに倒れた。
伸び切ったトゲが天井をめがけて、ゆらゆらと揺れていた。


ミュステ
「ムラオサさみゃぁ!!」


椅子に腰掛けたまま、事の成り行きを見守ることしかできずにいた村長に、ミュステが抱きついた。

―――*―――*―――*―――

村は再び騒がしくなった。
氷から開放された村民たちは倒れたザグザを縛り上げ、アノーヴァについては村長の家で介抱を試みている。


村長
「ミュステ……よくぞ無事で。
 そして君たちも、ありがとう……」


村長はサッコたちに頭を下げる。

ミュステ
「ミューね、帰ってきて、すぐムラオサさまに会いにいこうとしたのっ。
 そしたらみんにゃこおりづけににゃってて……
 どうしようってにゃってたら、ムラオサさまの家からコウモリさんが出てきてっ」


レグル
「レグルだよ ヨロシク……」


エリオ
「そっか、ここに入る前にレグルは外に出てってたんだね。
 ボクら全員、まとめてやられないように……」


エリオはアノーヴァの看病を手伝いながら言う。薬師を志す彼は、医療の心得をいくらか学んでいた。

サッコ
「ああ……
 マジ助かったぜ、レグル。
 ……あの仔も起きたら、そう言ってくれるんじゃねーか?」


サッコもアノーヴァの方を見やる。

レグル
「あのコ……
 首輪で あやつられてた」


エリオ
「そんなモノがあるなんて……ヒドいよ。
 後遺症、出ないでほしいけど……」


アノーヴァは目をつむったまま、静かに息をしている。

そこへ、子どもたちが三人駆け込んできた。


ヤレッサ
「ムラオサさまぁ!」


マクリン
「もう大丈夫なのぉ!?」


ナーボリ
「あっ、ミュステだ!」


ミュステの姿を認めた子どもたちは、部屋に飛び込んでくる。

ミュステ
「あー! ヤレッサ! マクリン! ナーボリっ!
 みゅーん!!」


ミュステも村長の元を離れ、三人の元へ跳んでいった。