わかることはない記録

「すや…… すや……」
ベンチの上で女子高生が呑気に寝ている。
纏っている服は女子高生にしてはやたらと質素なものだった。
ホームレスだろうか。見かねた通りすがりの者が声をかけ、彼女は目を覚ます。

「……あれ?私、なんで寝てたんだろ?」

「あ!そうだ、私、用事があるんだった!
これから豪華客船のクルーズ船に……。」

「…………あ、あれ?チケットがない……?
おかしいな、確かにこのポッケに仕舞った筈……。」
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『僕』は今、窮地に立たされていた。
突如隣の家が火事となり、その炎が我が家に燃え移り延焼した。
その結果、見事に帰る家も財産もなくしてしまった。
今の僕には、何もない。
そこでたまたま見かけたのが、彼女が手に持っていたクルーズ旅行のチケットだった。
送り主の名前はたまたま知っていた。資産家が主催のクルーズ旅行であれば、金目のものも沢山あるだろう。
僕は静かに隙だらけの女子高生の後ろに立ち、睡眠薬を嗅がせ、チケットを奪い取った。

「…………よし。」
僕は変装が得意だ。
とはいえ、この特技を有効活用したのは今回が初めてだったが。
もしかしたら、身分証明とかも求められるかもしれない。学生証もついでに奪い取る。
そして豪華客船に潜り込み、金目のものや食料を奪い取る…… つもりだった。
気がつくと、絶海の孤島に流れ着いていた。
ここに来るまでの記憶もあやふやだ。所謂記憶喪失、というものだ。
何もわからない。自分の名前すらも。
……ふと、ポケットに入っていた学生証が目に入る。
氏名:和唐内 白音
こうして『僕』は、『和唐内 白音』となった。