Eno.186 Leonhard.H.P

そして、新たな船出へ

島は予告されていた通り沈んでいくようだ。海面は徐々に、しかし確実に陸地を侵す。
島に用意された脱出手段は2つ。救助に来た船に乗り込むか、手製の船で脱出に賭けるか。
前者は設備の仕組み上海難事故のリスクは低いように見えるが、船の乗組員を信頼し、全てを預けねばならない。
一方後者は問題なく航行できるかに疑問が残るが、相手は同じ島で生活を共にした仲としてある程度気兼ねなく過ごせる。

どちらが……あるいはそのまま沈む島の船に乗り続けるかは個人の自由だ。
選択に絶対の正解はなく、すべてに利点と欠点が存在する。

正直な話、私は当初最後の択を取るつもりだった。
異形の姿は忌み嫌われ、帰る場所すらない。
もとよりこの漂流は安住の地――終の棲家探しの最中だ。
この島を理想的な環境と定め、静かに余生を過ごしていくのも悪くないと思ったのだが……少々事情が変わり、今私は手製の船――沸騰号に乗り込んでいる。

きっかけは一つの小さな約束。決して簡単な道ではないそれを果たすべく、私は再びペンを執った。

願わくば、私の著作が彼女の勤務先へ届かんことを。