Eno.933 阿納 漣

かえろ

どうにか無事に船出の日を迎えることが出来そうだ。
船は砂浜に置かれ、船旅を乗り切るための物資も揃った。
だんだんと漂流者も船に集まってきており、そろそろ出発する頃だ。

結局、船や物資を破壊する者は現れなかった。
幸運なことだと思う。
悪意を持った自殺志願者は、おそらく人が数百人もいればその中に一人はいる。
この島の十数人の中にはたまたまいなかったようだ。

そうなれば、あとの命運は船旅を乗り切れるかどうかにかかっている。
水と食料は各々持たされているが、本当に今ある分で足りるのか?
船旅がどれほど続くか分からない以上、何も保証はされていない。
だから、船出までの残りの時間で予備の真水と保存食はなるべく作っておいた。
それと一応、護身用のナイフと斧も。本当に一応。逃げ場のない船の中で飢饉や争いに見舞われるのは御免だ。

結局、真水と保存食と護身具のほかに持ち出せたものは一枚の金貨くらいだった。
どこのものとも分からないし、本当に価値のあるものかも分からない。
ただの記念にしかならないかもしれないが、まあ十分だろう。
命さえ助かるのなら、あとは全て些細なおまけだ。

生き延びられたらもう絶対に船には乗らないぞ。