(30)
頭が痛い。
ゆっくりと目を開けると、見覚えが少しある天井と、白いベッドシーツが視界に入る。
「ん」
息を吸えば、空気に混じるほんの少しのアルコール臭さ。
まだ耳鳴りの残る中、音がひとつ。
「マナちゃん! よかった、目が覚めたのね」
この声……? 保健室のせんせーだ。
ああ、ここ保健室か。
「マナちゃん大丈夫? 登校中倒れてたのよ。症状的に熱中症だけど――ほら、色々あったって聞いたから貴方……学校、無理しないでいいのよ」
言い辛そうなせんせーの顔、珍しい。
まあ仕方ないか。
「結構重症だから……一旦お医者さんに診てもらってね。お母さんとお父さんにも連絡しといたから」
ぼーっとその言葉を聞きながら、先生の後ろにある棚に乗ったデジタル時計を見る。
あの島に行く直前――からちょっとだけ時間は過ぎて、もうすぐ夕方だった。
相当な時間、気絶してたんだろうな。
そこでちょうどお医者さんが来校したらしく。一旦先生は席を立ち、保健室の外に行った。その隙に私はごそごそと鞄を探す。
チャックを開けると香る磯のかおり。うわ、こればれたらやばいやつ。
砂と塩のような何かで汚れた鞄の中には――
綺麗な金貨と
へんてこな絵柄のついたカップと
ムキムキうさぎのぬいぐるみと
星の瞬く魔法の銀杯と
……それと誰が突っ込んだか、時計の針だけが入っていて。
窓から見える橙色の夕焼けは、相変わらず無駄に綺麗だったけど。
私はもう、それが憎らしいとは思わなかった。
~~~
その後、まあ色々あった。大体は予想通り。
流されたついでに行方不明になったペンライトとか教科書が家に置きっぱなしになっていたのは何の配慮?ってカミサマに思ったけど。
それ以外は、本当に予想通り。
要らない心配と、配慮と、――アイツのいない日常だけが過ぎていく。
人間一人いなくなるだけじゃ、世界は何も変わらない。残酷なほど。
寂しくなんかないと言ったら嘘になる。時々ため息が零れて……胸が少し、きゅっとなった。
そんな時はね、本屋さんとCD屋さんに行って、アイドル界隈のお勉強をこっそりやるんだ。
それとちょっと自転車で海まで……船を見たり、夜の星空を見たり、あと演劇も行くようになったかな。
あちこち旅しまくる娘の様子に、お父さんとお母さんはちょっぴり困った顔だったけれど、特に文句は言ってこなかった。
今年の大きな花火、とっても大きくて綺麗だった。
キラキラの写真をカメラに収めて、とある一冊の薄冊の表紙にした。
待っててねアスカ、とびきりキラキラの――貴方のための曲を持って行くから。
もちろん私の大好きなお店の一覧と、旅の先々で見つけた景色とお土産もセットね。
そんなコレクション4セットと楽譜を、秘密の箱にしまい込んで。
私は今日も、通学路への扉を開けた。
ゆっくりと目を開けると、見覚えが少しある天井と、白いベッドシーツが視界に入る。
「ん」
息を吸えば、空気に混じるほんの少しのアルコール臭さ。
まだ耳鳴りの残る中、音がひとつ。
「マナちゃん! よかった、目が覚めたのね」
この声……? 保健室のせんせーだ。
ああ、ここ保健室か。
「マナちゃん大丈夫? 登校中倒れてたのよ。症状的に熱中症だけど――ほら、色々あったって聞いたから貴方……学校、無理しないでいいのよ」
言い辛そうなせんせーの顔、珍しい。
まあ仕方ないか。
「結構重症だから……一旦お医者さんに診てもらってね。お母さんとお父さんにも連絡しといたから」
ぼーっとその言葉を聞きながら、先生の後ろにある棚に乗ったデジタル時計を見る。
あの島に行く直前――からちょっとだけ時間は過ぎて、もうすぐ夕方だった。
相当な時間、気絶してたんだろうな。
そこでちょうどお医者さんが来校したらしく。一旦先生は席を立ち、保健室の外に行った。その隙に私はごそごそと鞄を探す。
チャックを開けると香る磯のかおり。うわ、こればれたらやばいやつ。
砂と塩のような何かで汚れた鞄の中には――
綺麗な金貨と
へんてこな絵柄のついたカップと
ムキムキうさぎのぬいぐるみと
星の瞬く魔法の銀杯と
……それと誰が突っ込んだか、時計の針だけが入っていて。
窓から見える橙色の夕焼けは、相変わらず無駄に綺麗だったけど。
私はもう、それが憎らしいとは思わなかった。
~~~
その後、まあ色々あった。大体は予想通り。
流されたついでに行方不明になったペンライトとか教科書が家に置きっぱなしになっていたのは何の配慮?ってカミサマに思ったけど。
それ以外は、本当に予想通り。
要らない心配と、配慮と、――アイツのいない日常だけが過ぎていく。
人間一人いなくなるだけじゃ、世界は何も変わらない。残酷なほど。
寂しくなんかないと言ったら嘘になる。時々ため息が零れて……胸が少し、きゅっとなった。
そんな時はね、本屋さんとCD屋さんに行って、アイドル界隈のお勉強をこっそりやるんだ。
それとちょっと自転車で海まで……船を見たり、夜の星空を見たり、あと演劇も行くようになったかな。
あちこち旅しまくる娘の様子に、お父さんとお母さんはちょっぴり困った顔だったけれど、特に文句は言ってこなかった。
今年の大きな花火、とっても大きくて綺麗だった。
キラキラの写真をカメラに収めて、とある一冊の薄冊の表紙にした。
待っててねアスカ、とびきりキラキラの――貴方のための曲を持って行くから。
もちろん私の大好きなお店の一覧と、旅の先々で見つけた景色とお土産もセットね。
そんなコレクション4セットと楽譜を、秘密の箱にしまい込んで。
私は今日も、通学路への扉を開けた。