Eno.8 ベルギッテ

新人船長ベルギッテ

ベルギッテは《順風の世界》に戻り、商船が目指していた西の港町に降り立った。

《順風の世界》
常に東から西に風が吹き続けている世界。自然が豊かで、風と水の魔法が快適な生活を支えている一方、人口が少なく、各産業がなかなか発展・定着していない。



何名かの元船員と再会し、彼女が乗っていた交易船は座礁し、破片の一部が西の港町に流れ着いたこと、まだ見つかっていない船員はいるものの、死亡は確認されていないことが分かった。行方不明者には、ベルギッテの両親……船長たちも含まれている。

「船も無いし、船長たちも見つからない……仕事も無いしでこれからどうしようってところに、お嬢がこうして無事に戻ってきてくれて、嬉しいッス。でも、船も金も無いんじゃ、困ったッスね……」

「船ならあります!この、『友誼の囀りなかよぴよぴよ号』が」

豪華客船なかよぴよぴよ号Ⅱ──改め、友誼の囀り号には、この世界では珍しいドラム缶、ブルーシート、ゴムを使った銛等が積まれており、プラ材とドラム缶を使ったコンテナは職人たちから視察の希望が相次いだ。樹脂製の黄色いアヒルは小型の浴槽に浮かべるものだという。

ただし、本当の『宝物』は見せびらかすようなことはしなかった。

星の輝く銀杯でラム酒を飲めば、キラキラハッピー☆な気持ちになれる。彼女のいつも明るい声と姿が浮かんで、何でも挑戦できる気がしてくる。

寂しい夜にはキラキラ草☆ぬいぐるみを見れば、CAMPFIREを囲んで談笑した時間を思い出させてくれる。歯を見せて笑う彼の姿が目の裏に浮かぶ。

星の無い暗い曇った夜も、ペンライトで照らせば、煌めきを振り撒いた、仄かな光を思い起こす。……彼女の晴れやかな笑顔と共に。

値打ちものの金貨に、船の設計図。でも、大事なのは、書かれた異世界の『アイドル』のサイン。もっと素材を揃えれば、ここに書かれた立派な船みたいにも改造できるかもしれない。

ベルギッテは数人の船員と共に、家業を続けながら、両親を探す──友誼の囀り号の船長として。