--- の外---
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彼等は遠く、水平線の彼方へとゆくのでしょう。
僕等はまるでその景色を幾度も見たように、エンジンと波の駆動に身を任せるのでした。

「まるで何かを、ひっかけているみたいに……きみは、難しい顔を、するんだね」
ニシュプニケは揺られながら、今迄とこれからを考えておりました。
この先自分はどうなって、何をどうしていけば良いのだろう、と。
それは丁度切った筈の小指が、惜しまれるように。

彼等はもう戻らないでしょう。
ニシュプニケを見もしないでしょう。
代わりにはならない、酷く幼気な視線と言葉を浴びながら。
高楼たるその理論の砦は、ニシュプニケの──
いいえ、今迄の僕等の数千年を確かに証明していたのです。
刻んでいたのです。

──私きっともう、歩み出す事は出来ないわ。
そう言ってニシュプニケは、赤く青い瞳を瞬かせました。
砦はすぐには壊れず、例え壊さずとも、その役目を終えれば自然に孵るのでしょう。

浮く島も、沈む島も、ニシュプニケにはちっとも見えません。
見えるようになる方法を知りながら、ニシュプニケはそれを買わなかったのです。
その指は、祈りの為に組むものであって。
誰かを、自分を削る為のものではないと。ニシュプニケは知っていたからです。

「それでいいんでしゅか、あなゃたは」
大切に寄り添っていた全てを、ニシュプニケはもう頼りませんでした。
彼等には彼等の、僕等には僕等の、ニシュプニケにはニシュプニケの。
世界が、特別が、心が、命があったのです。

ニシュプニケの旅は終末を迎え、こうして願いという呪いは解けてゆくのでしょう。
その時そこにあるのは確かに彼の人が買った、ニシュプニケだけの物語。
傷つけ、傷つきながらも、なぞるだけでない白杖の道筋です。
─ニシュプニケ、どうか聞こえぬ声を聞いてね。
─ニシュプニケ、どうか見えぬものを見てね。
─ニシュプニケ、どうかひとりになんてならないでね。
いつかそう言われたように、ニシュプニケもまた誰かにそう言うのです。

「“ないおと”をきいて。“ないもの”をみて」
「そしてあなたがひとりにならないように」
祈りましょう、どこ迄も。
幸福なニシュプニケ。黒い爪の悪魔の子、理を乱すエマの子。
白く黒い爪先が弾くのは、鍵盤ばかりで良いのです。
細く長い手で掴むのは、真に欲するものだけで良いのですから。
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