Eno.704 アスエリオ

エピローグ ひと夏の記憶


──それは、船出して、元の世界に戻った後のおはなし。

  ◇

「…………」

 ふと気が付いたらそこはよく知る場所。もう青い空も海もなく、ただ無機質な建物の広がる空間。あぁ、戻ってきたのだなとアスエリオは実感した。

「……ヴィオレ、ユグノア」

 己の相棒たる二丁拳銃を探した。それらはいつの間にか手元にあったけれど、あちらで作った弓、魔銃ヴィオレ(偽)もあって。
 あの優しい天使のくれた、お守りもあって。飴やお茶菓子の缶もあって。

「…………あぁ」

 あの不思議な島での出来事は、夢ではなかったのだと理解した。そうやってぼんやりしていたら、ゆらり、影が揺れた。
 魔局前、晴れた日の屋外。

「──アスエリオッ!」

 ぜぃ、ぜぃと息を切らし、黄昏色のデイズが彼女を見ていた。

「アスエリオ、見つかったの!?」
「アスエリオー!」
「……アスエリオ」

 イルメリアもティアリーもクロードも現れた。“ジェミニ”のメンバーが勢揃いだ。

「アスエリオ! お姉ちゃん、心配したんだから……! 元気? 怪我はない? ごはんはちゃんと食べてた!?」

 自分に抱きついてわめく姉を、アスエリオはそっと抱きしめた。その顔は笑っていた。

「“私”は……大丈夫。
 えっとね、色々あったんだ。
 報告書、書かなきゃならないけど……
 でも、その前に」

 ただいま、と。笑いかけた。

「異世界に神隠しにあってたんだ。
 でもね、悪いところじゃなかったよ。
 お土産もあるから、
 あとでみんなで食べてよ」

 今の自分はきっと、
 とても素直に笑えている。

「不思議な海の世界がありました。そこには夢と冒険と自由が広がっていました。ねぇデイズ、空と海って……綺麗なんだ、ね。外の世界を見られたよ。私、絶対に忘れない」

 刹那の7日間。もうあのメンバーで一緒にいられることは、ないのかも知れないけれど。心に灼きついて消えない夏の記憶、大切で大好きな、“別の仲間たち”の記憶。

「ねぇみんな。いつか必ず、ここを出よう。デイズに海を見せるよ、約束は必ず果たすよ。でも……その前に」

 手にしたお茶菓子の缶を、
 振ってみせた。

「──ちょっとおやつに、しない?」

  ◇

 黄金の甘い飴玉は、あの時に見た太陽のいろ。サクサクのクッキーは、漂着船で拾えたご馳走。
 楽しげに笑う仲間たち、びっくりしている仲間たちを微笑みながら眺めつつ、魔局長に会うまでの少しの平穏を、アスエリオは楽しんだ。

 この先、苦難はある。何事もなく終わるなんてあり得ない。それでも、あの島での思い出が、“ジェミニ”の仲間たちが、死んだジェミニの影が、背中を押してくれるから。

──今なら未来を、信じられる。

「…………」