エピローグ ひと夏の記憶
──それは、船出して、元の世界に戻った後のおはなし。
◇
「…………」
ふと気が付いたらそこはよく知る場所。もう青い空も海もなく、ただ無機質な建物の広がる空間。あぁ、戻ってきたのだなとアスエリオは実感した。
「……ヴィオレ、ユグノア」
己の相棒たる二丁拳銃を探した。それらはいつの間にか手元にあったけれど、あちらで作った弓、魔銃ヴィオレ(偽)もあって。
あの優しい天使のくれた、お守りもあって。飴やお茶菓子の缶もあって。
「…………あぁ」
あの不思議な島での出来事は、夢ではなかったのだと理解した。そうやってぼんやりしていたら、ゆらり、影が揺れた。
魔局前、晴れた日の屋外。
「──アスエリオッ!」
ぜぃ、ぜぃと息を切らし、黄昏色のデイズが彼女を見ていた。
「アスエリオ、見つかったの!?」
「アスエリオー!」
「……アスエリオ」
イルメリアもティアリーもクロードも現れた。“ジェミニ”のメンバーが勢揃いだ。
「アスエリオ! お姉ちゃん、心配したんだから……! 元気? 怪我はない? ごはんはちゃんと食べてた!?」
自分に抱きついてわめく姉を、アスエリオはそっと抱きしめた。その顔は笑っていた。
「“私”は……大丈夫。
えっとね、色々あったんだ。
報告書、書かなきゃならないけど……
でも、その前に」
ただいま、と。笑いかけた。
「異世界に神隠しにあってたんだ。
でもね、悪いところじゃなかったよ。
お土産もあるから、
あとでみんなで食べてよ」
今の自分はきっと、
とても素直に笑えている。
「不思議な海の世界がありました。そこには夢と冒険と自由が広がっていました。ねぇデイズ、空と海って……綺麗なんだ、ね。外の世界を見られたよ。私、絶対に忘れない」
刹那の7日間。もうあのメンバーで一緒にいられることは、ないのかも知れないけれど。心に灼きついて消えない夏の記憶、大切で大好きな、“別の仲間たち”の記憶。
「ねぇみんな。いつか必ず、ここを出よう。デイズに海を見せるよ、約束は必ず果たすよ。でも……その前に」
手にしたお茶菓子の缶を、
振ってみせた。
「──ちょっとおやつに、しない?」
◇
黄金の甘い飴玉は、あの時に見た太陽のいろ。サクサクのクッキーは、漂着船で拾えたご馳走。
楽しげに笑う仲間たち、びっくりしている仲間たちを微笑みながら眺めつつ、魔局長に会うまでの少しの平穏を、アスエリオは楽しんだ。
この先、苦難はある。何事もなく終わるなんてあり得ない。それでも、あの島での思い出が、“ジェミニ”の仲間たちが、死んだジェミニの影が、背中を押してくれるから。
──今なら未来を、信じられる。

「…………」