豪麗の日記 キボウ 前編
この未知なる体験で
俺はこの学友たちのスゴさをまた改めて思い知る。
そして、誇りに思うのだった。
─────────────
脱出計画が発足してから数日。
俺たちは皆で作り上げた船に乗り、
出来うる万全の装備をそなえて海へ出た。
沈みゆく島。
不思議ばかりの思い出の地を背に、
誰一人として欠けることなく。
大人でも普通はこんなこと成し遂げられないはずだ。
だが俺は意外には思わなかった。
2-1は、希望そのものなのだ。
─────────────
2023年 4月 始業式の日。
俺は"あれから"ずっと休みがちだった。
年度の変わり目くらいは登校せねばと
窮屈な制服に袖を通し、家を出る。
足取りは重い。
ハレの日であるのに雲鳴りがしていて、
ああ、急がねば降ると思った。
いそごう。
初日から濡れたくはないだろう。
傘もない。
早く行かねば。
……鈍重な足取りは変わらなかった。
ポツ、ポツ、と細い雨粒が道の先をうつ。
その一粒が並木の桜の花びらを鋭く撃ち落とし、
俺の頬に負け姿を貼り付けた。
ああ。
これに抗う気力がない。
次第に雨足は早くなり
遠くで予鈴が鳴った。
俺はその場で立ち尽くしたままで、
雨は頬の花びらを洗いながしてくれるどころか
張り子の糊のようにベタベタと身を固めてくる。
このまま動けなくなったらどうするんだろうと
他人事のように考えていると
「まあ」
と驚く声がした。
見知った老齢の女性が、傘を持ってこちらを見ていた。
◆
営業時間外でも食べ物の匂いが満ちる店内で
貸してもらったタオルをかぶり、
冷えた水をもらう。
「ありがとう」「申し訳ない」と言いたくて
口を動かすも、うまく声がでない。
情けなさに身を縮めると
おばあさんは人の好い声で「いいのよ」と言った。
「なにか食べる?」という問いかけには首を横に振る。
そこまでご厄介になるわけにはいかないからだ。
ここの一家にはいつもコンディションを見抜かれている気がする。
同級の鍋島直哉という男を筆頭に。
おばあさんも大将も何か察しているのか
座ったまま動けずにいる俺をそっとしておいてくれた。
年季の入った掛け時計の針の音を聞いているうちに幾時間経ち、
昼飯時が近づくにつれ仕込まれている料理の匂いは濃くなる。
やがて学ランの男が帰ってきた。
こちらを一瞥し口を開きかける。
おそらく「学校にいなかったやつがどうしてここに」
という意味だ。
そして、問うまでもなく察したから口を閉じたのだ。
男はいつも通りぶっきらぼうに厨房と言葉を交わすと
店の奥へ入っていく。
……前に、思い出したようにこちらに声をかけてきた。
「クラスの奴ら来るぞ」
は。
気まずいと思う間もなくガヤガヤと声が響いてきた。
午前終わりだからと昼飯を食いに来たのだろう、
よく見るフットワークの軽いメンツだ。
前年違うクラスだった人間もちらほら。
「ほらほら~こっち」と何故か俺のいるテーブル周辺に集いはじめる。
休んだことに触れられるでもなく、大羽など
「奇遇だね!」と言わんばかりにクラス替え表を見せてきた。
こいつらと同じクラスということらしい。
─────────────
後編へ続く
俺はこの学友たちのスゴさをまた改めて思い知る。
そして、誇りに思うのだった。
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脱出計画が発足してから数日。
俺たちは皆で作り上げた船に乗り、
出来うる万全の装備をそなえて海へ出た。
沈みゆく島。
不思議ばかりの思い出の地を背に、
誰一人として欠けることなく。
大人でも普通はこんなこと成し遂げられないはずだ。
だが俺は意外には思わなかった。
2-1は、希望そのものなのだ。
─────────────
2023年 4月 始業式の日。
俺は"あれから"ずっと休みがちだった。
年度の変わり目くらいは登校せねばと
窮屈な制服に袖を通し、家を出る。
足取りは重い。
ハレの日であるのに雲鳴りがしていて、
ああ、急がねば降ると思った。
いそごう。
初日から濡れたくはないだろう。
傘もない。
早く行かねば。
……鈍重な足取りは変わらなかった。
ポツ、ポツ、と細い雨粒が道の先をうつ。
その一粒が並木の桜の花びらを鋭く撃ち落とし、
俺の頬に負け姿を貼り付けた。
ああ。
これに抗う気力がない。
次第に雨足は早くなり
遠くで予鈴が鳴った。
俺はその場で立ち尽くしたままで、
雨は頬の花びらを洗いながしてくれるどころか
張り子の糊のようにベタベタと身を固めてくる。
このまま動けなくなったらどうするんだろうと
他人事のように考えていると
「まあ」
と驚く声がした。
見知った老齢の女性が、傘を持ってこちらを見ていた。
◆
営業時間外でも食べ物の匂いが満ちる店内で
貸してもらったタオルをかぶり、
冷えた水をもらう。
「ありがとう」「申し訳ない」と言いたくて
口を動かすも、うまく声がでない。
情けなさに身を縮めると
おばあさんは人の好い声で「いいのよ」と言った。
「なにか食べる?」という問いかけには首を横に振る。
そこまでご厄介になるわけにはいかないからだ。
ここの一家にはいつもコンディションを見抜かれている気がする。
同級の鍋島直哉という男を筆頭に。
おばあさんも大将も何か察しているのか
座ったまま動けずにいる俺をそっとしておいてくれた。
年季の入った掛け時計の針の音を聞いているうちに幾時間経ち、
昼飯時が近づくにつれ仕込まれている料理の匂いは濃くなる。
やがて学ランの男が帰ってきた。
こちらを一瞥し口を開きかける。
おそらく「学校にいなかったやつがどうしてここに」
という意味だ。
そして、問うまでもなく察したから口を閉じたのだ。
男はいつも通りぶっきらぼうに厨房と言葉を交わすと
店の奥へ入っていく。
……前に、思い出したようにこちらに声をかけてきた。
「クラスの奴ら来るぞ」
は。
気まずいと思う間もなくガヤガヤと声が響いてきた。
午前終わりだからと昼飯を食いに来たのだろう、
よく見るフットワークの軽いメンツだ。
前年違うクラスだった人間もちらほら。
「ほらほら~こっち」と何故か俺のいるテーブル周辺に集いはじめる。
休んだことに触れられるでもなく、大羽など
「奇遇だね!」と言わんばかりにクラス替え表を見せてきた。
こいつらと同じクラスということらしい。
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後編へ続く