Eno.543 八雲 渡

「漂流日記」~ただいま~

現在…陽桜市の八雲家にて。
制服姿の王子様と黒衣の魔女が木箱を囲んでいる。蔵の整理で何年かぶりに日の目を浴びたのだ。


「それから3年、奴は生きた」

「へえ、思ったより短かいね。まてよ、その間に魔法少女まで行き着いたのか……?色々と迅速すぎない?」

「今の形になったのはもっと後だがね。まあ、原型を作り上げたのは渡だった。
よくもまあ短い間にやったものだ。研究といい、後援する出資者集めといい……。
あの3年間にこそ奴の全てが込められていたのだろうよ」


八雲渡は留学の帰途、異界に巻き込まれた。その一部始終が書かれた日記は貴重な資料として保管されている。
垣原が定期的に復元することで当時とほぼ変わらぬ筆跡、状態、匂い、全てを今に伝えているのだ。


「本と、これは…禍々しいなぁ。呪具ってやつね。
ヒトデまである。それと、コイツもお呪いグッズなの?」


魚の形をしたぬいぐるみを拾い上げ、刺繍で描かれた目と睨めっこ。


「いや、ただの玩具だ。私が土産物をと言ったから律儀に作ったんだろうさ。流された分の穴埋めをな」

「仲良いな」

「フン…」


荷物の大半を失ったという損失の補填のつもりだったのだろう。
箱には持ち帰った西欧の魔術道具の他に、ぬいぐるみを初めとする土産物が詰められている。


「はー、絵上手いんだね。 題材はグロ……いや、個性的だけど


八雲『ワタル』の関心は、本の方に寄せられていた。挿絵のようにそえられたスケッチを追っていく。


「……ん、」

「どうした」

「紙挟まってるよ。しおり?」

「しおりなんて付けていな…」


ひらひらと掲げられた紙切れ。
時が、一瞬止まる。







「……どこから出てきた」

「表紙っていうか、カバーのとこ。昔の本らしい綴じだけど劣化しないよう紙に巻いてるだろ。その間にあった。
え、まさか初めて見た?」

「……」

「魔女さん?」

「これ、は……」



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「おかえり。……どうした、箱で顔を隠して。怪我か?疱瘡か?」

「あは、至って健康だよ。この通りね。
……これはねぇ、不思議の箱なんだよ!一瞬で風景を切り取って絵を描く凄いやつで…ほら!こんな風に黒い紙が出てきてそのうち…
あー!なんか動かない!え、壊れた?てか壊した?わ、わわわ…あー…」

「何をしている。
そんなことより、こっちに来い。ちゃんと顔を見せてくれ」

「……うん」

「なんだ、元気そうじゃないか。もっと窶れていると思ったよ」

「ごめん」

「うん?」

「僕だけが無事でもねぇ。積荷のほとんどがさ。
覚えてる分は全部写すけど、物はどうにもならない。なんて言えばいいんだ?その、ごめんなさい。あなたとの約束を守れなかっ……」

「何を言ってる?約束は土産だ。物だけじゃない。
……さあ、早く土産になる話をしてくれよ。私はそれが良い」

「……ふふっ、歌もおまけしようか」

「もちろんだ」


「君の話をきかせてくれ」




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「ポラロイドカメラか、あの箱は…!!」

「へーっ。異界なら時を超えることもあるわな。
おじさんからしたらラッキーなことじゃ……
え、じゃあこれ」

「……」

「うっっそ、魔女さんの若い頃!?確かにちょっと似てるけど……えぇ……あんたこんな顔できんの?」

「フン、まさか撮られていたとはな」

「赤くなってるでしょ」

「なってない。これ以上言ったらお前の口を縫い付けるぞ」

「お土産のぬいぐるみみたいに?かわいいねぇ」

「いい加減にしないと…」

「あっはははは!!!!」



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「土産話の前に言うことがないか?」

「え、あー……
出かける前に納屋燃やしちゃってごめん。あれは事故でね 本当に申し訳なく思ってる」

「初耳なんだが?その件に関しては後で詳しく聞かせろ」

「……そうじゃない。『おかえり』には『ただいま』で返せといつも言ってるだろ」

「そうだっけ」

「そうとも」

「え〜 ……それじゃ、改めて」









「ただいま、垣さん」