Eno.134 愛庵 芽花

この海に 〜NEXT STAGE〜

「次のステージはァ!
 ”ハテコー”の船乗りビートボクサー!
 JOE-SEEEENッ!」




歓声が波みてえに押し寄せる。

ここにいる奴ら全員、まとめて俺のステージにノせてやるとき、
ちいせえ頃、大部の爺さんに手を引かれてった日の光景を思い起こす。
漁船の周りに広がる海。波が弾ける音。カモメの声。
重てえエンジン音に、船が揺れてガタつくリズム。
一生忘れねえ、俺のビートの源流。

時折妄想に浸る。
もし、幽霊がいたなら?

そうしたら、大部の爺さんは今頃、数多くの海を旅しているかもしれねえ。
太平洋、大西洋、全てが繋がる7つの海。
もしかしたら、”あの海”にさえ。

……なんてな。
これは”あの海”に行けねえ俺に代わって、誰かに歌を届けて欲しい。
そんな戯言だ。

俺が、”ハテコー”の船乗りとしてビートを刻むのは今年で最後。
俺のビートボクサー人生はまだまだこれからだし、
お前のことだって、ぜってえ忘れるつもりはねえけどよ。
思い出が遠ざかっていくってのは……

ちと寂しいよな。


     ♪

♫          ♪
        ♪  ♫ 
    ♬♪  

          ♫  ♪
                     ♩ ♪ 





「……おっと。
 嬢ちゃん、いつからそこにいた?
 こんなところで何してんだ」


「…………だれ……」


「俺ァ、漁師……
 海で魚を捕ったりするやつだな。
 ここは、俺が巡ってきたどの海よりも寂しがりな奴でよ。
 たまにこうして歌ってやるのさ」


「うみ は……やだ……
 かえりたい……」


「俺が送ってってやろうか。
 この海は、不思議なとこでよぉ。
 普通はありえねえ、奇跡みてえなことが起こる。
 その気になればどんな海にも行けちまうんだぜ」


「ちがう
 かえるところが……ない
 どこにも……」


「………嬢ちゃん。
 だったら尚更、俺と旅しようぜ。
 どうせ行き場所がねえなら、変わんねえだろ?」


「…………わたし は……」


「さァ、乗ろうぜ俺の船に!」


「あっ!?
 ま、まって……――」




♪  ♫ ♩
        ♪   
            ♫
              ♪ . . . .





ねえ、アカリ。

彼には私の秘密をひとつ話したけど、
あなたのことはまだ話していないわ。

まあ、それは当然。
私の中では既に答えが出ていることだもの。

でも、近々話すつもりよ。
この船旅を無事終えて。
『彼』が『彼』であるという証明を成したその後に。

パパは真実を見ることはできない。
ママは、私が生まれる前に出ていったけど、
今もあなたを想っているのかしら。わからないけれど……

少なくとも確かなこととして、私は、あなたの存在を胸に秘めている。
だから、それを彼に打ち明けることで……
"あなたがこの世界で生きた"と証明したい。

なぁに、このぐらい話した程度で揺らぐ男じゃないわ。
そうよね? 薩摩隼人。

私が知る中で、誰よりも豪胆な男よ。
そうでなくても、そうでありなさい。

私と並び立つ以上はね!




TIPS
虎は強い♡