Eno.333 豪麗 芽斗

豪麗の日記 キボウ 後編

朝食から数時間しか経っていないはずなのに
食べ盛りの高校生たちのテーブルにはてんこもりに飯が並んでいる。

気まずいので俺も点心を頼んだ。

隣に座っている何森がスマホを見せてきて言う。
「メト。今年の先生、元芸人らしいぜ」
ウケているのかウケてないのかわからない動画が流れている。

俺に向けられた笑顔はたぶん
おもしろいから少しだけでも見に来てみなよ、ということなのだ。

周りの話を聞けばエジプトから来た9歳の交換留学生もいるらしい。
それはさすがに盛りすぎだとして……。

それぞれが好きなように喋っている風景は騒がしい。
料理を運ぶ鍋島に釘をさされている。

サボってバツの悪かった気分が喧騒に押し流される。
よくもわるくも、適当に。





土日を挟んだ次の登校日。

気付けば教室の自分の席にいた。

担任の先生は真面目そうだが確かにユニークだ。
9歳の天才エジプト人留学生も……実在した。

授業初日から鳩が飛ぶやら狩られるやら、
メカじみた女子に宣戦布告もされ、
俺のロケットパンチが飛ばないことを嘆かれていたら
ペットボトルロケットが天井に突き刺さり
ロケット禁止令が出た。

その礼状は翌日には消えており、
誰かが食べたらしい。
何故か先生の記憶にもなかった。


………………。
これは夢かもしれない。
あまりにもとりとめがない。


だが見る夢を選べるなら中々わるい内容ではなく
ほどほどに絡まれ、飽きがこないので

ただ惰性でそれを選びつづけてみることにした。


気付けば、俺は欠席しなくなっていた。






ボクシングは小さい頃からの
ライフワークであったので
懲りずに、というか習慣としてジムに通う。

6月も終わりかける頃、コーチに言われた。

「芽斗。やっと生きる気になったらしいな」

……たしかに死んでしまいたいと思ったりもしたが
それをコーチに伝えたことはない。

そして、生きる気になったつもりもなかったので
その言葉には面食らった。

───────────

真暗な心の風穴に小さな導明かりがあることに気付く。
目をこらせばそれはよく覚えのある騒がしさの色で、
暗闇の中 点々と続いている。


そうか。

俺は歩けるようになっていたのか。

道のり遠くとも、間違っていたとしても
縋っていいものをやっと見つけた俺は
帰り路すこしだけ泣いた。