Eno.933 阿納 漣

力と恩

船旅のさなか、海賊が現れた。
結果的に危害は加えられなかったし、むしろ情報も提供してもらったのだけど。
それでもやっぱり、ああいう必要なら武力に訴えることを躊躇わないタイプは苦手だ。
表立って交渉してくれる人たちがいて良かった。

それにしても、この海と島には特別な力が働いていたという。
一週間の間に十数人で一からこんな船を造ってしまえるというのは、
それは確かに何かの助けなしに出来るようなことではないのだろう。

しかしこれはいくらでも悪用が効く力なのは間違いない。
あの島に漂流したのは各々後ろ盾のない個人だったが、
もし組織力を持った集団が意図的に流れ着くことが出来たら?
不可能を可能にすげ替えられる力なんてものはいかようにも使われる。
それこそあの海賊たちのように。

そういう意味でも、この島で暮らしを共にした人たちにそういう意図がなくて救われた。
そもそも自分一人の力でこうして脱出するなんて不可能だったろうから、いわば命の恩人だ。
恩人たちのことはなるべく覚えておこうと思う。
一方それでいて彼らには自分のことは忘れてもらって構わないとも思っているが、
そのくらい自らが自分勝手であることにもとっくに慣れている。

まあ、でも、自分勝手であろうと、最後にそのくらいの感謝はきちんと伝えておかなければ。
おそらく今後ほぼ確実に再会する機会もなさそうなのだから。