*
2028年12月31日。
都内某所の病院、当直室。
「はぁ〜、せっかくうずリリが紅白初出場だってのに、こういう年に限って病院で年を越すんだよなぁ……」
「先生、またアイドルの追っかけですか?先生がドルオタなことはみんな知ってますけど、当直中くらいは……」
「地下アイドルだった頃から応援してるんだよぉ!国試の勉強してるときも、うずリリの曲ヘビロテしてさぁ!」
テレビでは年末の風物詩、紅白歌合戦が流れている。よく知らない演歌をBGMに、一緒に年を越す羽目になった当直看護師とバカなやりとりをしている。
「はいはい」
看護師は聞き流しているが、俺にとって『うずめLily』はバイブルだ。
リリカちゃんの圧倒的な歌唱力、リオナちゃんのユーモアも捨てがたいが、俺の推しはやっぱりセンターの鶴ちゃんだ。歌、ダンス、カリスマ性はもちろんのこと、俺は彼女には「逞しさ」のようなものがあると思っている。まるで、無人島から生還したかのような……
「あ、そうそう。うずリリといえば、鶴岡せららでしたっけ?あのセンターの子。今度卒業するらしいですよ」
「マジで!?」
アイドルが永遠じゃないのは理解しているつもりだ。現に、俺が応援し始めた頃のメンバーは誰一人残っていない。
とはいっても……あの鶴ちゃんが卒業!?
永遠の16歳じゃないかと思っていた可愛さと力強さ。そして歌とダンスのパフォーマンス。それがもうすぐ、見られなくなるというのか。大晦日の夜、当直室。あまりにもショックが大きすぎる。
「女優さんに転向するとか、大学院に進学するとかで」
「推しのアイドルが……院進!?」
「……先生、推しだったんですね。
うずリリが出る時間に急患が来ないことを祈りましょう」
「いつだって急患は来てほしくないっすよ」
*
幸い、うずリリの時間に患者は来なかった。厳密には一人いたのだが、元気なくせに「腰が痛いから来た」とか、どう考えても寂しいから来たの類だろと思うおばあちゃんだけだった。おばあちゃんの話し相手になることを口実に、待合室のテレビの前に居座る。大晦日だからか、他の当直スタッフも待合室のソファに居座り、患者と一緒に紅白歌合戦を見ていた。
番組の真ん中くらいにあるニュースの時間が終わり……そして、いよいよ我らが『うずめLily』の出番になった。
俺は早速、センターの鶴岡せららを目で追いかけていた。彼女の力強いパフォーマンスも、瞳の花模様も、一段と輝いて見えた。もしここが病院でなければ、間違いなく彼女に声援を送っていたし、サイリウムだって振っていたと思う。
『うずめLilyは子供の頃からの憧れで、その一員になれたことを誇りに思います。それと同時に、ほんとうにたくさんのことを学ばせて頂きました。
プロデューサーやメンバーのみんな、ファンのみんな、ほんとうにありがとーーー!!!
……でも、もっと感謝したい人達がいるから、後でちょっとだけ時間もらってもいいですか?』
さっき、鶴ちゃんはこう言っていた。感謝したい人って、誰だろう。
『わたしが3年間過ごしてきた思い出の母校。
果ての島高校、旧2年1組、共に無人島を生きたみんなに感謝を込めて、この歌を届けます。聴いてくださいーー』
アコースティックギターを持った彼女が、ギターを弾き、歌う。お世辞にもギターは上手いとはいえないが、アイドルで歌っているときよりも、瑞々しく透き通った歌声が、テレビ越しにもわかった。
『船に乗って旅に出ようよ
航路は奇跡が教えてくれる
おとぎばなしに書いてある帰り道辿って
星の記憶が語りかけるよ
「僕も君も欲張りなんだよ」って』
知らない曲だった。
でも、不思議と心が温まるような気がした。
『さ 行こうよ
記憶も未来もいっぱい胸に抱いてーー』
そうだ。
彼女はアイドルを卒業しても、いつまでも輝いているんだ、きっと。
都内某所の病院、当直室。
「はぁ〜、せっかくうずリリが紅白初出場だってのに、こういう年に限って病院で年を越すんだよなぁ……」
「先生、またアイドルの追っかけですか?先生がドルオタなことはみんな知ってますけど、当直中くらいは……」
「地下アイドルだった頃から応援してるんだよぉ!国試の勉強してるときも、うずリリの曲ヘビロテしてさぁ!」
テレビでは年末の風物詩、紅白歌合戦が流れている。よく知らない演歌をBGMに、一緒に年を越す羽目になった当直看護師とバカなやりとりをしている。
「はいはい」
看護師は聞き流しているが、俺にとって『うずめLily』はバイブルだ。
リリカちゃんの圧倒的な歌唱力、リオナちゃんのユーモアも捨てがたいが、俺の推しはやっぱりセンターの鶴ちゃんだ。歌、ダンス、カリスマ性はもちろんのこと、俺は彼女には「逞しさ」のようなものがあると思っている。まるで、無人島から生還したかのような……
「あ、そうそう。うずリリといえば、鶴岡せららでしたっけ?あのセンターの子。今度卒業するらしいですよ」
「マジで!?」
アイドルが永遠じゃないのは理解しているつもりだ。現に、俺が応援し始めた頃のメンバーは誰一人残っていない。
とはいっても……あの鶴ちゃんが卒業!?
永遠の16歳じゃないかと思っていた可愛さと力強さ。そして歌とダンスのパフォーマンス。それがもうすぐ、見られなくなるというのか。大晦日の夜、当直室。あまりにもショックが大きすぎる。
「女優さんに転向するとか、大学院に進学するとかで」
「推しのアイドルが……院進!?」
「……先生、推しだったんですね。
うずリリが出る時間に急患が来ないことを祈りましょう」
「いつだって急患は来てほしくないっすよ」
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幸い、うずリリの時間に患者は来なかった。厳密には一人いたのだが、元気なくせに「腰が痛いから来た」とか、どう考えても寂しいから来たの類だろと思うおばあちゃんだけだった。おばあちゃんの話し相手になることを口実に、待合室のテレビの前に居座る。大晦日だからか、他の当直スタッフも待合室のソファに居座り、患者と一緒に紅白歌合戦を見ていた。
番組の真ん中くらいにあるニュースの時間が終わり……そして、いよいよ我らが『うずめLily』の出番になった。
俺は早速、センターの鶴岡せららを目で追いかけていた。彼女の力強いパフォーマンスも、瞳の花模様も、一段と輝いて見えた。もしここが病院でなければ、間違いなく彼女に声援を送っていたし、サイリウムだって振っていたと思う。
『うずめLilyは子供の頃からの憧れで、その一員になれたことを誇りに思います。それと同時に、ほんとうにたくさんのことを学ばせて頂きました。
プロデューサーやメンバーのみんな、ファンのみんな、ほんとうにありがとーーー!!!
……でも、もっと感謝したい人達がいるから、後でちょっとだけ時間もらってもいいですか?』
さっき、鶴ちゃんはこう言っていた。感謝したい人って、誰だろう。
『わたしが3年間過ごしてきた思い出の母校。
果ての島高校、旧2年1組、共に無人島を生きたみんなに感謝を込めて、この歌を届けます。聴いてくださいーー』
アコースティックギターを持った彼女が、ギターを弾き、歌う。お世辞にもギターは上手いとはいえないが、アイドルで歌っているときよりも、瑞々しく透き通った歌声が、テレビ越しにもわかった。
『船に乗って旅に出ようよ
航路は奇跡が教えてくれる
おとぎばなしに書いてある帰り道辿って
星の記憶が語りかけるよ
「僕も君も欲張りなんだよ」って』
知らない曲だった。
でも、不思議と心が温まるような気がした。
『さ 行こうよ
記憶も未来もいっぱい胸に抱いてーー』
そうだ。
彼女はアイドルを卒業しても、いつまでも輝いているんだ、きっと。