Eno.318 ミュステ

『光』に導かれて(前)

カノンペル村に『光』が現れたその瞬間から、二日ほど過ぎて。

ミュステ
「みゅーん、こっちこっちー」


ぬたぬたと飛び跳ねながら坂を登るミュステ。
後方からエリオが追ってくる。


エリオ
「はぁ、はぁ……
 き、キミ、すごいね……? ボクもうへとへとだよ……」


ミュステ
「みゅふふ〜ん。
 水のにゃかでも陸のうえでも元気いっぱいにゃのよっ!
 ほら、これにゃよね、エリオがさがしてるの!」


ミュステが指差す先には、青紫の花をつけた薬草がいくらか生えている。
エリオは手持ちのノートを開き、描かれているものとそれを比較する。


エリオ
「……うん、たしかにサカサヤマノキキョウだよ!
 これで課題の薬草は全部! ありがとミュステ、ほんとに助かったよ!」


ミュステ
「んみゅ……
 そっか、エリオ、アカデミーの宿題でここきてたんにゃよね。
 もういっちゃうの?」


エリオ
「あ、うん……ごめんね。
 でも、帰るのは明日にするよ。今から山降りても途中で暗くなっちゃうかもだし……」


ミュステ
「みゅ〜ん……」


ふとミュステのお腹が鳴る。軽く笑うエリオ。

エリオ
「村に戻ろっか。
 お昼ごはん用意してくれてるよ、みんな」


ミュステ
「みゅ〜!」



―――*―――*―――*―――

一方、カノンペル村、村長の家にて。

村長
「今から15年ほど前のことだ。
 あのダー=ノヴィンの『島』で爆発が起こった……
 『島』は下の山が蓄えている力を吸い上げているそうだが、どこかで間違いが生じたのだろう。
 爆発で飛び散ったモノのひとつが、この山に落ちた。これはそのかけらだ」


村長は、瓶の中で綿と布とに覆われてある薄虹色の石をサッコとレグルに見せる。
傍らにはアノーヴァも伏せて、静かに耳を傾けている。


村長
「……ミュステが姿を現したのはその少し後だ。
 最初は普通のネコナマズとそう変わらんかった。ただ妙に人懐っこくて、気にはなった。
 それが時を経るうち、ヒレが腕のようになり、ついには言葉のようなものをしゃべり出した……」


レグル
「……なんか オレみたい です……?」


村長
「うむ……
 ミュステの変化は、野獣が使い魔となり、少しずつ変わっていくようにも見えような。
 想像にすぎんが、このかけらと同じものが他にもあって、呑み込んだりでもしたせいかもしれん。
 ネコナマズは食い物に見えたらなんでも丸呑みしようとするからのう……」


サッコ
「……使い魔モドキ、か。
 オイラたちもウワサを聞いて来ちまった身だが……」


にわかにうつむくサッコ。

村長
「……どうした?」


サッコ
「そりゃ……だってよ。
 この村、今のまんまじゃいられない、よな、きっと……
 ザグザはTGに引っ立てれたけど、ギャング連中もこれで何もしねーってことは……」


顔を曇らせるサッコの前で、しかし村長はにかっと笑う。

村長
「何を言っとるんだ!
 ヤツの勝手で仕掛けてきて、君たちがワシらを救ってくれたんだろうが。
 何を気に病むことがある!?」


サッコ
「……それは、まあ……そうだけど」


村長
「ほら、胸を張れい。
 ……そろそろミュステとエリオも帰ってきちまうぞ、昼メシのしたくを手伝ってくれんか」


村長はすっく、と立ち上がり、手にしていた瓶を別な部屋に戻しにいく。

サッコはふと、傍にいたアノーヴァに声をかける。


サッコ
「そういや、お前はどうだ?
 どっか悪いトコとかもう……」


アノーヴァ
「はい、おかげさまで」


サッコ
「そっか、よかった」


アノーヴァ
「……でも、これからどうしようかしら。
 もう、オルタナリアへどうすれば帰れるのかもわからなくなってしまいました。
 ずっとここにいさせてもらうというわけにも……」


サッコ
「……」


そこへ村長が戻ってくる。

村長
「ほれ君たち、台所にこい」


台所へ向かうサッコ、レグル、そしてアノーヴァ。

しばらくして、醤油の香り、白飯の匂い、脂の爆ぜる音が風にのり、山中の村に漂う。
応える声が、ひとつ。


ミュステ
「みゅっふふぅ〜〜!!」