Eno.461 メェ

ひつじはとんだ

『外で暮らすのも中々面白かったな。
 特に絵に描いたようなパンケーキの質感!』

どうしても作りたかったんだよね。
メェメェ呟きながら本を広げる。
ページをめくると遭難中の出来事が全部描かれている。
泳いだこと。料理したこと。
罠を見回っては直したこと。氷が涼しかったこと。
暑かったこと。雨が嬉しかったこと。火が暖かいこと。
毎日木をどっさり伐採してきてくれた遭難者の頼もしかったことや、どっさり獲れる海の幸や動物を持って帰っては、きっちり管理しあっているのを頼りにしていたこと。倉庫の食材はあまり取らずに木の実と草ばかり食べてたこと。誰かが誰かのために走って、叫んで、時々泣いたり落ち込んだりしてるのを、ただ見てるしかしなかったこと。
それから実は沈没船でラム酒をがぶ飲みしてたこと。

その最後のページには『おしまい』と書かれている。
空白がもう1ページしかないその本を海に放って手を振った。


『じゃあね。
 どこかの国の子供達の歌、古い民話で会おう。
 羊は長い歴史と一緒に生きてきたんだ』

そのまま波の上にぷかぷか浮いた白いページに飛び降りる。
そして羊の姿も絵本も海に沈むように消え去った。
溺れる水音は聞こえない。

お伽話のように月だけが海に浮かんでいた。