まだ残る夏の香
―― 集団漂流のことを振り返る。
自分の異界に囚われていたときに、オクエットから集団漂流の話を聞いていた。
彼女はいい出会いこそあったが、
契約者と呼べる者がいなかったときは辛かったと言っていた。
それこそ、心が折れ、道具として崩壊してしまう程度には。
無理をする者が後を絶たなかった。
「余の世界は誰も死なぬ」
「余の世界は魔術師が作った、不変の箱庭だ」
「故に変化はない 変化があったとしても結局は元に戻る」
「けれど、世界の外は違う」
「人は死ねば死ぬ。壊れてしまえば元に戻らない」
「外の世界は常に変化する、一度会った者の命は短い」
「この前会ったと思ったら!」
「次には、もう二度と会えなくなっている!」
「無理をすれば! 必ずどこかで崩壊が起きる! ここは不変な世界とは違うのだ、いつ何が起こるか分からない、不確定の未来の世界だ!」
「なぜそのような世界で無理をさせられる! なぜそのような世界で無理をする!」
「なぜ分からぬ! なぜ分かってくれぬ!」
「なあ、人よ!余は、間違っておるか!?
これは、余が弱いからか、余が甘えておるだけなのか!?」
近くへと寄ってきていた兎を一匹撫でようとすると、逃げられた。
影狼の気配がはっきりした今、動物は影を恐れ、逃げる。
彼らとの繋がりが希薄だったからこそ、こうして動物を連れ出すことができた。
なお、連れてきた動物は東先生に引き渡した。
あの人は動物に式神を与え、動物をサポート部隊として何匹も飼っているし、野生にも放っている。
案の定くそでか溜息をつかれたが、全ての動物を引き取ってくれた。
今の兎も、式神を付与された一匹だ。
彼女は逆に、島では動物を従えられなかったという。
動物に傷つけられ、動物を捉え、捌き、食した。
オクエットが食した。
それは、盟友と慕う者を殺し、食すこと。
自分以外の者が食べることは耐えられると言っていた。
その言葉には嘘はない。アルカーナムでも民は狩猟を許可しているそうだ。
自分は集団生活から逃げた。
耐えられなかった。何をされるか分からない中で過ごすなど。
無条件に人を疑う今、心休まらない環境はストレスでしかなかった。
人を傷つけたいわけではない。だから、傷つけることないように一人で過ごしたかった。
そこに確かに寂しさはあった。
特に流されて数日は、楽しく過ごしているだろう生活へ耳を塞いで逃げ出した。
かと思えば、無理をする者が多いことを知った。
こっちのことを心配している場合ではないだろうに。
一体何を信じて頼れと言うのだろうか。
そうして振り切って、一人で過ごして。
結果的に一人ではなければ得られなかったものもある。
雷の美しさを知った。
自然の暴力の力強さを感じた。
それに、励まされた。
映ったものは、聞いた話と似ていた。
彼女が辛いと思う空気が流れていた。
あぁ、と納得した。
こうして動物を連れ帰ってきたのは。
確かに、かの島での理不尽を感じたからだったけれど。
彼女への敬礼だった。
自分は同じにならないと。
お前が苦しんだようにはしないと。
お前の苦しみの全てを解決することはできないけれど。
こういう人間もいるんだと、胸を張って言いたかった。


星も見えない山の奥深くで。
ぱちぱちと火を焚いて、葉の境界線の先の空を仰いだ。
森の中で飲むホットミルクの美味しいこと。
採ってきた舞茸と釣り上げたアマゴを焼いて、食べる。
「―― なあ、あかり、」
―― 秋に色づいた紅の葉が、地面へはらりと落ちた
自分の異界に囚われていたときに、オクエットから集団漂流の話を聞いていた。
彼女はいい出会いこそあったが、
契約者と呼べる者がいなかったときは辛かったと言っていた。
それこそ、心が折れ、道具として崩壊してしまう程度には。
無理をする者が後を絶たなかった。
「余の世界は誰も死なぬ」
「余の世界は魔術師が作った、不変の箱庭だ」
「故に変化はない 変化があったとしても結局は元に戻る」
「けれど、世界の外は違う」
「人は死ねば死ぬ。壊れてしまえば元に戻らない」
「外の世界は常に変化する、一度会った者の命は短い」
「この前会ったと思ったら!」
「次には、もう二度と会えなくなっている!」
「無理をすれば! 必ずどこかで崩壊が起きる! ここは不変な世界とは違うのだ、いつ何が起こるか分からない、不確定の未来の世界だ!」
「なぜそのような世界で無理をさせられる! なぜそのような世界で無理をする!」
「なぜ分からぬ! なぜ分かってくれぬ!」
「なあ、人よ!余は、間違っておるか!?
これは、余が弱いからか、余が甘えておるだけなのか!?」
近くへと寄ってきていた兎を一匹撫でようとすると、逃げられた。
影狼の気配がはっきりした今、動物は影を恐れ、逃げる。
彼らとの繋がりが希薄だったからこそ、こうして動物を連れ出すことができた。
なお、連れてきた動物は東先生に引き渡した。
あの人は動物に式神を与え、動物をサポート部隊として何匹も飼っているし、野生にも放っている。
案の定くそでか溜息をつかれたが、全ての動物を引き取ってくれた。
今の兎も、式神を付与された一匹だ。
彼女は逆に、島では動物を従えられなかったという。
動物に傷つけられ、動物を捉え、捌き、食した。
オクエットが食した。
それは、盟友と慕う者を殺し、食すこと。
自分以外の者が食べることは耐えられると言っていた。
その言葉には嘘はない。アルカーナムでも民は狩猟を許可しているそうだ。
自分は集団生活から逃げた。
耐えられなかった。何をされるか分からない中で過ごすなど。
無条件に人を疑う今、心休まらない環境はストレスでしかなかった。
人を傷つけたいわけではない。だから、傷つけることないように一人で過ごしたかった。
そこに確かに寂しさはあった。
特に流されて数日は、楽しく過ごしているだろう生活へ耳を塞いで逃げ出した。
かと思えば、無理をする者が多いことを知った。
こっちのことを心配している場合ではないだろうに。
一体何を信じて頼れと言うのだろうか。
そうして振り切って、一人で過ごして。
結果的に一人ではなければ得られなかったものもある。
雷の美しさを知った。
自然の暴力の力強さを感じた。
それに、励まされた。
映ったものは、聞いた話と似ていた。
彼女が辛いと思う空気が流れていた。
あぁ、と納得した。
こうして動物を連れ帰ってきたのは。
確かに、かの島での理不尽を感じたからだったけれど。
彼女への敬礼だった。
自分は同じにならないと。
お前が苦しんだようにはしないと。
お前の苦しみの全てを解決することはできないけれど。
こういう人間もいるんだと、胸を張って言いたかった。

「―― 余との契約は終わっておるだろうに」

「汝は、律儀なやつよの――」
星も見えない山の奥深くで。
ぱちぱちと火を焚いて、葉の境界線の先の空を仰いだ。
森の中で飲むホットミルクの美味しいこと。
採ってきた舞茸と釣り上げたアマゴを焼いて、食べる。
「―― なあ、あかり、」
―― 秋に色づいた紅の葉が、地面へはらりと落ちた